第七十五話 病院、デカすぎ問題
新生マリー・アントワネット記念病院の開業を前に、病院内は大忙し。
ところが理事長である妙子だけは、なぜか暇を持て余していました。
せっかくなので新しい病院を探検してみた彼女は、ようやくこの計画の本当の大きさに気づき始めます。
新生マリー・アントワネット記念病院の開業を、間近に控え。
今、病院じゅうが、てんやわんやの大騒ぎである。
職人たちは、最後の仕上げに走り回り。スタッフは、備品の運び込みに追われ。ロジエとシャルティエは、書類の山と格闘している。ヴァロワにいたっては、ここ数日、まともに眠っているのかどうかも、怪しい。
そんな中で。
一人だけ、することのない人間が、いた。
わたしである。
理事長なのに。いや、理事長だからこそ、なのか。細かい実務は全部、有能な部下たちが、勝手に進めてしまう。わたしは、ただ、ハンコを押すだけの、お飾りだ。
まあ、お飾りは、お飾りで、楽でいい。
せっかく暇なので。わたしは、新しい病院の中を、探検してみることにした。
……で、歩いてみて、思った。
でかい。
めちゃくちゃ、でかい。
なんなの、ここ。あの、ぼろっちくて臭くて、床が抜けそうだった、お化け屋敷みたいな慈善病院が。いったい、どこへ行ったというのか。
あれか。複合施設、ってやつか。病院と、役所と、ショッピングモールが、全部入った、便利なビル。前世の駅前に、よくあった、あれ。
そもそも、おかしいのだ。
新しい理事長室の隣に、やたらと、バカでかい部屋がある。机が、ずらーっと、並んでいる。これだけ机があるってことは、相当な人数が、働く場所のはずだ。
でも、うちの病院って、そんなに人、いたっけ?
首をかしげながら、廊下をうろうろしていると。ちょうど、ヴァロワが、通りかかった。
これ幸いと、捕まえる。
ヴァロワは、露骨に、嫌そうな顔をした。「このクソ忙しいときに、お前のお守りなんざ、してられるか」という、オーラを、全身から放っている。
知ったことか。暇なんだから、付き合いなさい。
「ねぇ、ヴァロワ。この隣の、やたらでかい部屋。あれ、何なの?」
「……あれは。病院関係者用の、スタッフ事務所です」
「え。でも、でかすぎない? うち、全部合わせても、四十人くらいよね」
「はい。今は、そうですが」
ヴァロワは、書類に目を落としたまま、答えた。
「近々、厚生局から、百人ほど、派遣される予定です。さらに、ロジエが、人選中ですが――三百人ほど、入る予定です」
「……は?」
百人。
三百人。
足し算が、苦手なわたしでも、わかる。今の、十倍だ。
「え。まさか。もしかして……この、でっかい建物。ぜんぶ、病院、なの?」
「はぁ……」
ヴァロワが、これ見よがしに、ため息をついた。
「いったい、何だと、思っていたんですか」
「びょ、病院と、ショッピングモールと、役所が合体した……複合、施設?」
「ショッピング……?」
ヴァロワは、心底わからない、という顔で、首をかしげた。
「なんだか、存じませんが。違います。順次、状況を見つつ。最終的な、完全オープンは――三年後を、予定しています」
「じゃ、じゃあ。これから、もっと、大きくなるの?」
「はい。その予定です」
くらり、と、めまいがした。
あの、ぼろ病院が。三年後には、巨大な、医療コンビナートに、化けるという。
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