第七十三話 希望の、象徴(言い方)
テレー前長官の計画では、妙子はただの病院理事長ではありませんでした。
王族でありながら民の現場に立つ彼女は、王室と民をつなぐ新しい象徴として利用されるはずだったのです。
ただし、ヴァロワの説明はあまりにも直球でした。
「……わたしを?」
「はい」
「なんで?」
「王族でありながら、民のいる現場に、立っているからです。普通の王族は、このような、泥臭い場所へは、来ません。周囲も、来させません。ですが――なぜか、王妃様は、ここに、いる」
「なぜかっていうか。王宮に、居場所が、なかっただけ、なんだけど……」
「理由は、どうあれ。結果が、重要です」
ひどい。
事実だけど、ひどい。
「この病院を、王都だけの、慈善施設で終わらせず。各地へ、広げる。王妃様の名を冠した、病院と、出張所を作り。王室と、民を、直接つなぐ」
「え、ちょっと待って。計画書にも、書いてあったけど。本当に、病院を、増やすの?」
「計画書上では、そうなっています」
「誰が、やるのよ」
「我々、です」
「なんで、当然みたいに、言うのよ!」
ヴァロワは、無視した。
無視して、淡々と、続ける。
「……あと。黒字化、って言ってたわよね。慈善病院、なのに。お金をとって、大丈夫なの?」
「だからこそ、この新病棟を、建てたのです。ただの慈善病院に、こんなハイテクビルは、不要です」
「……なんか、今、ものすごく、ひどいこと言ってない?」
さらに、ヴァロワは。眼鏡を、押し上げながら、言った。
「いつまでも、国の資金に、頼っていては。いつ、また、予算をカットされるか、わかりません。せっかく、チャンスをいただいた以上。政府の援助なしで、機能する組織に、再編する必要が、あります」
その言葉に。
わたしは、少しだけ、黙った。
「王妃様の、お名前を、利用して。事業の利益と、寄付だけで回る、組織にする。そうして、全国に、強固な、医療インフラを、構築し――ついでに、王家の名声も、上げてしまおう、という。一石、三鳥を、狙ったのです」
「でも」
わたしは、つい、口を、挟んでしまった。
「あいつは、わたしを。増税の、弾除けに、したじゃない。そのせいで。せっかく、軌道に乗りかけてた、募金活動が。破綻、しちゃったじゃない」
「……しました」
そこは、否定しないのね。
「ですが。捨て駒に、するつもりなら。ここまでの計画は、不要です」
ヴァロワは。計画書の表紙に、そっと、手を、置いた。
「テレー前長官は。確かに、王妃様を、利用した。ですが――同時に。王妃様に、賭けても、いたのだと、思います」
「……なんなのよ、あいつ」
本当に。なんなのよ、あいつ。
「つまり。王妃様は。政治的に、極めて、利用価値が、高い」
「言い方!」
「事実です」
「もっとこう、希望の象徴とか! 言いなさいよ!」
「それも、同じ意味です」
「同じじゃ、ないわよ!」
「でも」
わたしは、ふと、引っかかったことを、聞いた。
「だったら、なんで。自分で、企画して。自分で、つぶすような、真似したの? このトイレも、病院も。全部、あいつが、用意してたんでしょ?」
ヴァロワは。少しの間、黙った。
そして、静かに、言った。
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