第七十二話 三行で、説明しろ
テレー前長官が遺した分厚い計画書。
そこに書かれていたのは、慈善病院を軸に、王妃の名を使って王室の権威を立て直すという壮大な国家戦略でした。
ただし、妙子には難しすぎたので、まずは三行で説明してもらうことになります。
「では。これより、具体的な、新戦略プランを、説明いたします」
そう言うと、ヴァロワは。テレーの遺した、分厚い計画書を、開いた。
「第一。本計画は、王太子妃殿下を軸として、王室権威の再構築、ならびに、地域衛生体制の整備を、目的とするものである。第二。上記目的達成のため、王都慈善病院を、中核施設とし――」
……。
ええっと。
なんか、急に。眠く、なってきた。
「王妃様」
ヴァロワの声が、氷みたいに、冷たくなった。
「寝て、いませんよね」
「寝てないわよ。ちょっと、魂が、離れかけただけ」
「同じ、です」
失礼ね。
でも、悪いのは、ヴァロワである。
難しい言葉を、ずらずら並べれば、賢そうに見えると思ったら、大間違いだ。ネットでは、みんな言っていた。「文章は、三行で書け」と。三行以上の文章は、なろう読者だって、読まないのだ。たぶん。
……と、そのとき。
どこからか、声が、聞こえた気がした。
『なろうに、一話二万字の話を、バンバン上げたら……読者に、逃げられやがったぁぁぁ……! 編集の、苦労がぁぁぁ……!』
という、誰かの、魂の叫びが。
……はて。
なんだか、他人事とは思えない、不思議な叫びだったが。きっと、気のせいだろう。
「長ったらしい話は、いいのよ。短く、わかりやすく、まとめて。わたしは、忙しいの」
「王妃様が、忙しいふりを、なさるとは。珍しいですね」
「ふりじゃ、ないわよ!」
ヴァロワは、小さく、ため息をついて。計画書を、ぱたん、と閉じた。
「では。要約、します」
そうして、すっと、指を、三本、立てた。
「まず。この病院を、有料化して、黒字化する。そして、その利益で、慈善病院を、運用します」
「次に。王立慈善病院の名を、王族の名――つまり、王妃様の名に、変えることで、注目を集めます。そうなれば、寄付が、集まってくる」
「それを、原資に。国中に、支店・出張所を、設立し。完全に、政府から独立した、医療ネットワークを、構築する」
「その結果。国内に、圧倒的な存在感を、示せるようになり――王族の、権威が、復活する。以上です」
……三行どころか、五行あった気がするが。まあ、さっきよりは、はるかに、わかりやすい。
「だから、テレー前長官は。王妃様を、新しい王室の顔に、するつもりでした」
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