第七十話 まさかの、作り主
二百五十年ぶりに出会った、白磁の玉座。
感動に打ち震える妙子でしたが、その作り主を聞いた瞬間、言葉を失います。
彼女にとって奇跡のような文明の遺産は、あのテレー前長官が残していったものでした。
ごほん、と。もう一度、咳払いをして。わたしは、なんとか、王妃の威厳を、取り戻した。
取り戻したことにした。
「……喜ぶなんてもんじゃ、ないわよ。ねぇ、これ。誰が、作ったの? 天才? 神様? それとも、未来人?」
至極まっとうな、疑問である。
この、中世まっただ中の野蛮な異世界に。水で流れる便器が、存在するわけがない。これは、奇跡だ。あるいは、わたしと同じ、転生者の仕業に、違いない。
ヴァロワは、少しだけ、間を置いてから。
静かに、答えた。
「――テレー前長官、です」
「……は?」
空気が、少しだけ、止まった。
今、こいつ。なんて、言った?
「こちらは、テレー前長官が。英国式の流水厠を参考に、技師たちへ、試作させたものです」
「えい……英国式?」
「はい。水を用いて、汚物を、下部の処理槽へ、流す構造です。完全な、下水直結では、ありませんが――従来の便器椅子や、汲み取り式に比べれば。臭気も、衛生面も、大きく、改善されています」
「……すごい」
わたしは、思わず。もう一度、その便器を、見つめた。
今なら、この白い陶器に、後光が差して見える。いや、差している。たぶん、差している。
——あいつが。
あの、胡散臭い、営業スマイルの男が。
わたしを、増税の弾除けにした、あの男が。
こんな、奇跡みたいなものを、遺していった、というのか。
「ただし。この厠は――新病棟計画の、ほんの一部に、すぎません」
ヴァロワは、そう言って。理事長室の机へと、視線を、向けた。
「ちょうど、よい機会です。十月の定例会議を、ここで、行いましょう」
「最高幹部会議、ね」
「定例会議、です」
「最高幹部会議、よ」
「……では。定例会議を、始めます」
負けた気がする。
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