第六十八話 二百五十年ぶりの、再会(予告)
季節は秋。
慈善病院の新病棟が少しずつ形になり始める中、妙子はヴァロワに案内され、新しい理事長室を見に行くことになります。
そこで彼女を待っていたのは、二百五十年前の世界で失われていた、あまりにも懐かしい文明の気配でした。
最近、何かが、おかしい。
ドブレである。
あのクソリプ髭男が、最近、どうも、様子がおかしいのだ。
相変わらず、口は悪い。悪いのだが――以前ほど、刺すような嫌味を、言わなくなった。
その代わり。なぜか、シャルティエと連れ立って、どこかへ出かけることが、増えたのである。
……何あれ。
もしかして。男同士の、イベントが、発生している?
いやいやいや。わたしは、そういう本に、詳しいわけじゃない。前世の友達が、やたら貸してこようとしただけで。わたしは、深淵を覗く前に、そっと本を閉じた側の、人間である。
それに。組み合わせとして、どうなの。
忠犬系ぽっちゃり官僚と、無精髭のクソリプ記者。
……需要、あるの?
いや。世の中は、広い。たぶん、あるところには、あるのだろう。あらゆる組み合わせに、それを愛する者は、存在するという。前世のインターネットは、わたしにそう教えてくれた。
「王妃様。今、何か、失礼なことを、考えていませんでしたか?」
シャルティエが、じとっと、こちらを見てきた。
勘の鋭いやつである。
「考えてないわよ。友情って、素晴らしいなって、思ってただけ」
「なぜ今、少し、目を逸らしたのですか」
失礼ね。
少しだけよ。ほんの、少しだけ。
そんなこんなで、騒がしくも、妙に落ち着かない日々を過ごしているうちに。季節は、夏を越え。いつの間にか、秋に、なっていた。
十月。
その日、ヴァロワが、珍しく改まった顔で、理事長室へ、やってきた。
「王妃様。新病棟の一部が、内見可能になりました」
「新病棟?」
「はい。まだ工事中ではありますが――王妃様に、ぜひ、確認していただきたい場所が、ございます」
そのときのわたしは、まだ、知らなかった。
このあと、わたしが。二百五十年ぶりに、文明の光と、再会することを。
さっそく、いつもの最高幹部会議の面々に、召集をかけた。
もっとも、「最高幹部会議」などと呼んでいるのは、わたしだけで。実態は、わたし、ヴァロワ、ロジエ、シャルティエの、四人だけである。
まあ、気分は大事だ。
わたしたちは、新病棟の総責任者である、ヴァロワに連れられて。まだ工事途中の、新館へと、向かった。
廊下には、木材が積まれ。壁の一部には、まだ塗り残しがある。職人たちも、忙しそうに出入りしていて。いかにも、「開業前」という感じだった。
その中で。一室だけ、すでに、きれいに整えられた部屋が、あった。
「こちらが、新しい、理事長室です」
「……理事長室?」
部屋は、特に、豪華というわけでは、なかった。
宮殿にあるような、金ぴかの装飾もないし。無駄に大きな絵画も、ない。けれど、新築ということもあって、清潔で、明るく。机や棚の配置も、無駄がなかった。
シンプルで、機能的。
現代でいうなら、ちょっと立派な、事務所といった感じだろうか。
こちとら、常に懐が寒いので。余計なものに、金をかけていないことには、むしろ、好感すら持てる。
「いいじゃない。無駄に、偉そうじゃなくて」
「王妃様に、そう言っていただけると。設計者も、浮かばれるでしょう」
「死んだみたいに、言わないで」
そんなことを言いながら、部屋を見回していると。
壁際に、もう一つ。小さな扉が、あることに、気づいた。
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