第六十話 国王陛下、危篤
テレーの仕掛けた課税改革によって、教会と貴族の反発は一気に広がっていきます。
怒りに任せて財務局へ向かった妙子が見たのは、もはや抗議どころでは済まない混乱でした。
そしてその騒動は、ついに国王ルイ十五世の身にも重くのしかかっていきます。
頭にきて、わたしは、財務局に怒鳴り込んだ。
「テレー! 出てきなさい!! どういうつもりよ、あの新聞は!!」
ところが。
財務局も、それどころでは、なかった。
正面玄関を開けた瞬間に、目に飛び込んできたのは――地獄絵図。
教会の僧侶たちと、地方の領主たちが、ロビーで、物理的に、殴り合っていた。
「貴様ら、いつも教会の連中だけずるい思いをしていたんだろう!」
「何を言うか、貴族こそ、領地で甘い汁を吸ってきたではないか!」
椅子が宙を舞い、壺が割れ、書類が散乱する。職員たちは、机の下に避難している。
……いや、もう、わたしの抗議どころじゃ、ない。
そもそも、テレーの姿は、どこにもない。たぶん、奥の自室にでも籠もって、息を潜めているのだろう。
この国。
革命が起きる前に、内戦で、滅んじゃうんじゃないだろうか――。
そんな、本気の心配が、頭をよぎった。
* * *
この騒動は、当然、国王陛下の耳にも、届いた。
諸侯と教会から、すさまじい圧力が、国王陛下に集中した。連日、謁見を求める貴族の列が、絶えなかった。
普段は、好々爺で人好きな、あの国王陛下も。
この、未曾有の騒動には、さすがに、参ったらしい。
連日の対応に追われ、心労が重なり――やがて、体を壊して、寝込んでしまわれた。
諸侯は、対立。
国王は、寝込む。
財務局は、圧政を強行。
これまで、表にはあまり出てこなかった、この国の「綻び」が。一気に、噴き出した瞬間だった。
国全体に、暗雲が、立ち込め始めていた。
* * *
わたしは、正直、国王陛下が倒れられたと聞いたとき。
かなりの、ショックを、受けた。
普段は、心の中で「クソジジイ氏ね」とか「セクハラジジイ」とか、好き放題に言っていたけれど。
なんだかんだで、国王陛下は。
わたしがフランスに来て以来、ずっと、実の娘のように、かわいがってくださった人でも、あったのだ。
「案山子だと思え」「畑の真ん中で解放感」「今夜、見に来い」――確かに、あれは、ひどかった。一生、忘れない。
でも、あれだって、悪気はゼロで。陛下なりに、わたしのためを思って、本気で出してくれた、アドバイスだった。
ねじが何本か、根本的なところで、緩んでいただけで。
優しい、人だったのだ。
その後、わたしの祈りもむなしく。
国王陛下の病状は、芳しくないどころか、悪化の一途を、たどった。
国内には、さらなる動揺が、走り続けた。
そして、ある日。
わたしのもとへ、その報せが、入ってきた。
――国王陛下、危篤。
お読みいただきありがとうございました。
本作は毎日19時40分ごろ更新予定です。
続きが気になる方は、ブックマークやページ下部の星評価で応援していただけると、執筆の励みになります。




