第五十八話 弾除けに、された件
新聞の一面に載った、慈善病院の改名と新病棟建設。
一見すれば、妙子にとって喜ばしい知らせのように見えました。
しかしシャルティエは、その記事が貴族や教会にどう読まれるのかを、青ざめた顔で説明し始めます。
「え? なに? そりゃ、教会や貴族は大変でしょうけど。うちの病院の経営とは、関係ないでしょ?」
「大ありですよ!!」
シャルティエが、悲鳴のように叫んだ。
「いいですか、王太子妃様。この新聞を読んだ、教会や貴族は――いったい、何を思うと、思いますか?」
「ん? なんて、思うの?」
「……一面と、二面。並べて、読んでみてください」
言われて、わたしは、もう一度、新聞を見た。
一面。【王太子妃の病院、改名・新病棟・スタッフ増員】
二面。【財政逼迫により、貴族・教会から課税】
…………。
…………あ。
「『王太子妃が、自分の趣味の慈善に、湯水のように金を使った』『そのせいで国庫が空っぽになった』『だから、その穴埋めに、俺たち貴族から、税を搾り取るつもりだ』――読んだ人間は、そう、思うってことです!!」
ぞわぞわぞわ、と。
背筋を、悪寒が駆け上がった。
そうだ。
新聞は、何も「嘘」は書いていない。病院が立派になったのも事実。貴族に課税するのも事実。
ただ、その二つを、一面と二面に、並べて、置いただけ。
それだけで。
読者の頭の中に、勝手に、「→(だから)」という、矢印が、生まれる。
王太子妃の浪費 → だから増税。
そういう、物語が。誰に強制されたわけでもなく、読者一人ひとりの脳内で、勝手に、完成してしまう。
テレーは、一言も「王太子妃のせいだ」とは書いていない。書く必要が、ないのだ。ただ、記事を、隣に、並べればいい。あとは、読んだ人間が、勝手に、わたしを「諸悪の根源」に仕立て上げてくれる。
……なんて、こと。
なんて、悪魔的な、手口。
「えぇぇぇぇぇぇっぇぇ!!」
わたしは、絶叫した。
なんてことしてくれんのよ、クソテレー!!
世間話の「はい」一つで、勝手に病院を改名されて。気づけば、貴族から税を搾り取る大増税の、いちばん目立つ「言い訳」に、仕立て上げられている。
矢面に立つのは、テレーじゃない。「マリーアントワネット記念病院」――わたしの、名前だ。
なんで。
なんで、わたしが。
テレーの増税の、弾除けに、ならなきゃいけないのよ――!!
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