第五十六話 世間話で、嵌められた件
病院の様子を探るように訪ねてきた財務長官テレー。
世間話のように始まった会話は、いつの間にか貴族と聖職者への課税問題へと向かっていきます。
危険を察した妙子は何とか言葉を濁そうとしますが、相手はあのテレーでした。
「え?」
……税金?
なんで、急に、税金の話?
「あぁ、その。今は、医療関係で忙しくて。そっちのほうは、勉強に割く時間もなくて。一般知識程度しか、ないかな……」
「そうですか。そうですよね。王太子妃様は、大変お忙しい身ですからね」
テレーは、うんうんと頷いた。そして。
「では、こんなお話は、ご存じですか? ――この国では、貴族と僧侶は、税金を、一銭も払っていない。すべての負担を、民に押しつけているだけ、というお話を」
「え、そうなの?」
知らなかった。一銭も?
「幸い、王太子妃様のおかげで、王族からは多少の協力を得られるようになりました。ですが、貴族と僧侶は――まったく、協力しようとしない。このことを、どう思われますか?」
「え、それじゃ……民衆が、ブチ切れて、革命とか起こしちゃわない!?」
「いやいや」テレーは、おかしそうに笑った。「革命とは、物騒ですね」
そして、すっと、真顔に戻る。
「ただ、まぁ。王太子妃様がおっしゃるように、非常に不公平で。民衆が不満を募らせているのも、事実です。やはり、これは――公平に、皆から税を徴収するのが、よいとは思いませんか?」
…………。
うーん。
なんか、やばい。
ものすごく、やばい、地雷の臭いがする。これ、絶対、迂闊なことを言っちゃいけないやつだ。直感が、全力で警告している。
ここは、当たり障りのない返事で、かわすしかない。
「そ、そうね。確かに、不公平な気は、しますね。でも、税金は専門外だから。その辺は、専門家のテレーのほうが、ずっとお詳しいでしょうし。わたしには、ちょっと難しいですわね。ほ、ほーほほほ」
冷や汗をだらだら流しながら、わたしは、笑ってごまかした。
我ながら、完璧な、玉虫色の回答。何も言っていないに等しい。これで、言質は取られていないはず。
すると、テレーは。
満足げに、深く、頷いた。
「そういえば」
去り際、思い出したように。
「もうすぐ、王太子妃様のお誕生日でしたよね」
「え? まだ、数か月先ですけど」
「いえいえ。こういうものは、準備に時間がかかるものですよ。次のお誕生日には、我々のほうから、お心ばかりの贈り物をご用意しておりますので。どうぞ、楽しみにお待ちくださいませ」
そう言い残して、テレーは、上機嫌で去っていった。
……贈り物?
まぁ、何かくれるなら、ありがたいけど。
このときのわたしは、その「贈り物」が、どんな代物なのか、まったく、想像もしていなかった。
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