第五十五話 テレーの、営業スマイル訪問
慈善病院に少しずつ希望が見え始めたころ、財務長官テレーが理事長室を訪れます。
やけに愛想のいい営業スマイルで近づいてくる彼は、病院の内情まで詳しく把握していました。
そして話題は、なぜか「税金」へと向かっていきます。
その日、テレーは、いつにもまして、にこやかだった。
うさんくさい営業スマイルを、これでもかと顔に貼りつけて、理事長室に現れた。
「お久しぶりです、王太子妃様。いやはや、いつにもましてお美しくなられて。少し見ない間に、驚きましたよ」
「あ、そう。ありがとう……ところで、今日は?」
うさんくさい。超、うさんくさい。
この男が、用もなくお世辞を言いに来るわけがない。今度は、何を企んでやがる。そういえば、ヴァロワも「財務局に不穏な空気が」とか言ってたっけ。
警戒しつつ、わたしは身構えた。
「いやぁ、いつも財務局直轄の慈善病院の経営を、お手伝いいただいておりまして。そのお礼に、と思いまして」
「そ、そうなの……。まぁ、こっちはこっちで、なんとかなってるわ。心配ご無用よ」
「そうですか。何でも、最近は、貴族や教会を回って、募金活動までされているとか?」
……耳が早い。
「えぇ。皆さん、意外と――と言っては失礼だけど、前向きで。とてもよい方たちばかりで、助かっているわ」
「それはそれは、よいことですね。我が財務局も、そうやって王族が資金調達に積極的に動いてくださること、大変感謝しております」
「そこまで恐縮されることはないわ。これは、わたし一人の力じゃなく、皆の協力があってのことだから」
「そうですか。――ところで」
テレーは、すっと、目を細めた。
「今、何か、お困りのことなどございませんか?」
「まぁ、いろいろ問題は多いけれど。どうにかこうにか、なんとかなってますよ」
「そうですか。それは、よいことです。……ただ」
ちょっと、声を落として。
「ちょっと、小耳に挟んだ話ですが。病床が足りなくてお困りとか、スタッフが足りていないとか?」
「……よく知ってるわね」
ぞわり、とした。
なんで、こいつが、うちの内情をそんなに知ってるの。
「確かに、このままじゃどうなるかわからないけど。こればっかりは、どうしようもないし。できる限り、頑張るしかないわね」
「そんな、水臭い」
テレーは、大げさに、首を振った。
「私は、申し上げましたよね。何かあれば、いつでも言ってくださいと。全力でサポートさせていただきます、と。病床不足など、一言言っていただければ、すぐに対処いたしましたのに」
「あ、ありがとう。でも、そんな、無理しなくても大丈夫よ」
こ、こわい。
こいつ、何考えてやがる。きけん、きけん、きけん。全身の警報が、鳴りっぱなしだ。
「何を、ご謙遜を。私と王太子妃様の仲じゃございませんか」
テレーは、にっこりと笑った。そして、何気ない調子で、こう尋ねてきた。
「ところで、王太子妃様は。――税金について、どの程度、お詳しいので?」
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