第五十三話 募金箱を抱えて、街角に立つ
病床不足と人手不足に悩む慈善病院。
財務局からの予算増額が望めない中、ヴァロワが提案したのは、貴族や教会関係者から寄付を募ることでした。
半信半疑のまま動き出した妙子でしたが、これまでの視察と新聞報道は、思わぬ形で効き始めていたようです。
「では――募金を、募りましょう」
募金。
あぁ、募金ね。
そういえば昔、学校で募金活動の手伝いをやったことがある。募金箱を持って、駅前でみんなで「よろしくお願いしまーっす!」って叫ぶ、あれ。
……いや、でも。
仮にも一国の王太子妃が、街角に立って、募金箱を抱えて「お願いしまーっす」って叫ぶの、さすがに、どうなの? 絵面がやばすぎない?
そんな、しょうもないことを考えていると。
シャルティエが、ぽんと手を打った。
「それは、いいかもしれませんね。実は、多少なりとも興味を示してくださっている貴族や、教会関係者の方々が、結構いらっしゃるんですよ」
……は?
初耳である。
え、そうだったの?
言われてみれば。王宮では相変わらず針のむしろだけど、出入りする僧侶や貴族の中に、妙に好意的な人が、いた気がする。あからさまに味方、というほどじゃないにしても。「テレーにハメられて、可哀想に」みたいな、気の毒そうな顔で、遠巻きにこちらを見てくる貴族が、確かに、いた。
「へぇ。じゃあ、その人たちのところに行けばいいのね。よし、早速、行きましょう!」
「ちょ、ちょっと、気が早すぎます!」
シャルティエが、慌てて止めた。
「とりあえず、数日、お待ちください。リストアップと、面会の申し込みをやりますので。それまで、どうかお待ちを」
はぁ。
もう、面倒くさい。サクッと言って、サクッとお金、ふんだくれないものかしら。
* * *
数日後。
シャルティエ謹製のリストが完成し、それに従って、わたしは教会関係者や貴族のもとを、順繰りに訪問することになった。
どうせ、募金箱に小銭をちゃりんと入れて「頑張ってくださいね」と言われて、追い返されるんだろうな。
そう、たかをくくっていたのだが。
あら、びっくり。
どん、と。
金貨のぎっしり詰まった革袋を、テーブルの上に、置かれた。
す、すげぇぇ。
金貨。本物の金貨。しかも、袋ごと。
……いや、笑わないでほしい。王族なんだから金貨くらい見慣れてるだろう、と思うかもしれないけれど。違うのだ。
王族というのは、基本、自分でお金を見ない。買い物も、支払いも、すべて従者が管理している。「あれ欲しい」と言えば、従者が商人と交渉して、従者が支払う。それが当たり前。だから、こんなふうに、大量の金貨を目の前にどんと積まれる経験なんて、めったにない。
正直、ちょっと、感動した。
聞けば、効果が大きかったのは、やはり、あの病院のビフォーアフターらしい。
改装前の、あの霊廟みたいな地獄絵図。そして、改装後の、ぼろいなりにちゃんと機能している病院。その落差の衝撃が、相当なものだったらしい。記者を引き連れて大名行列で視察した、あれが、こんなところで効いてくるとは。
しかも、慈善活動に興味を持つ貴族は、実は結構いるのだという。さらに、慈善活動の総本山といえば、教会である。教会としては、メンツもかかっているので、ここで王太子妃に協力しないわけにはいかない、と、非常に積極的だった。
うんうん。
やはり、わたしの先見の明に、狂いはなかった。
これはアレだ。現代知識で異世界無双、ってやつだ。やっぱり、この世界の主人公は、わたし妙子で、間違いない。
(注・たまたま思いつきで始めた病院視察が、偶然うまくハマっただけである。しかも、そもそもこの病院を押し付けられた発端が、テレーにハメられたことだったのを、妙子はすっかり忘れている)
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