第五十一話 お祖父様、何を吹き込んだんですか
国王陛下の善意によって、すっかり顔を合わせられなくなってしまった妙子とルイ君。
義叔母様から真相を聞かされた妙子は、恥ずかしさと怒りで完全に恋愛どころではなくなってしまいます。
こうして彼女は、恋愛を捨てて仕事に生きる女になると宣言するのでした。
「――ということがあったのよ」
義叔母様は、そこまで話すと。
「もう、あのときのルイの顔ったら……ぶふっ」
ついに堪えきれなくなり、涙を流しながら、大笑いし始めた。
…………。
……な、ななな、何を言ってるの、あのクソジジ――じゃなくて、国王陛下は!!
よりにもよって、あること、ないこと、てんこ盛りにして、ルイ君に吹き込みやがった!!
四十八手? 演出? 見に来い?
言ってない! 一個も言ってない! わたしが言ったのは「公開は無理です、二人きりにしてください」だけ! それが、なんでそんな、官能小説の販促みたいな話に化けてるの!?
「ねぇ、マリー」
ひとしきり笑った義叔母様が、目尻の涙を拭きながら、聞いてきた。
「あなた、本当に、お父様にそんなお話をしたの?」
「ち、違います!」
わたしは、必死で否定した。
「王族として世継ぎをもうけるのは、大事な公務です。でも、今の環境ではそれが難しいから、なんとかしてほしい、とお願いに参っただけです! それだけです!」
「まぁ、そうよね」
義叔母様は、うんうんと頷いた。
「たぶん、お父様がかなり盛ってるんだろうとは、思っていたわ。でもね、お父様も、嬉しかったのよ。二年も進展がなかった二人が、ようやく、って。だから、悪気はないの。許してあげてね」
そう、しおらしく謝罪してくる義叔母様。
しかし。
悪気がある、ないの、問題じゃないっつーの。
せっかく、いい雰囲気だったのに。握り潰されたとはいえ、ちょっとは距離が縮まって、トゥンクとか言っちゃってたのに。それを、全部、一夜にして、ぶち壊しじゃないの。
もう、恥ずかしくて、ルイ君の顔なんて、見られない。
そして、それは、向こうも同じだったらしい。
あの一件以来。
わたしとルイ君は、王宮でばったり顔を合わせるたびに。
「……っ!」
「……っ!!」
お互い、ぼっと顔を真っ赤にして、脱兎のごとく、逆方向へ逃げ去るようになってしまった。
廊下の角を曲がった先に相手がいると、二人して「ひっ」と声を上げて、回れ右。
すれ違いざまに目が合うと、二人して、耳まで赤くなって、うつむいて早足。
もはや、純情系ラブコメ、どころの話ではない。
事案。完全に、事案である。
夫婦の距離は、振り出しどころか、マイナスまで巻き戻った。
ルイ15世陛下。あなたという人は。
二人きりになりたいと相談しに行った嫁を、結果的に、夫から全力で逃げられる女に、仕立て上げてくれた。
しかも、悪気ゼロで。
慈愛の笑顔で。
……だめだ、あの一族。
おじいちゃんも、孫も、嫁も。全員、どこか、ねじが飛んでいる。
* * *
――と、いう顛末を。
ドブレから、たっぷり聞かされたシャルティエとロジエは。
「……なるほど」
「人に歴史あり、ですなぁ」
しみじみと、頷いていた。
そこへ、当の王太子妃が、ずかずかと戻ってきた。まだ顔が赤い。
「ちょっと、あんたたち! 何を勝手に、人の話で盛り上がってるのよ!」
「い、いえ、何も!」
「とにかく! わたしは、もう、決めたの!」
わたしは、ばん、と机を叩いて、宣言した。
「恋愛なんて、こりごりよ! わたしは、仕事に生きる! この病院を、立て直すことだけに、全身全霊を捧げるわ! 仕事が、恋人! 以上!」
……まぁ、その決意が、三日も保たないことを。
このときのわたしは、まだ、知らなかったのだけれど。
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