第四十八話 今夜ルイを連れて、部屋に来い
国王ルイ十五世に助けを求めた妙子。
しかし返ってきたのは、案山子でも野菜でも足りない、さらにとんでもない提案でした。
誰にも自分の「無理」が伝わらない中、妙子はついにルイ君と結託することを決意します。
「……おぉ、そうか。わかったぞ。初めてだから、怖いのだな?」
違う。違います。そういうことじゃない。
「ならば、よし。今夜、ルイを連れて、わしの部屋に来るがよい」
「は?」
「わしが、手本を見せてやろう。なに、案ずるな。見て学べば、すぐにコツも掴める。はーっはっはっは!」
陛下は、心の底から愉快そうに、豪快に笑った。
孫に自転車の乗り方を教えてやろう、くらいの、気軽さで。
…………。
…………だめだ、こいつ。
何を言っても、通じない。
いや、通じないどころじゃない。会話を重ねれば重ねるほど、状況が、宇宙の彼方まで悪化していく。せめて二人きりにしてほしい、というささやかな願いが、いつの間にか「国王の実演指導付き家族鑑賞会」みたいな、字面だけで人類が滅ぶ提案に、すり替わっている。
これが、この国の頂点。
最高権力者。
わたしの、最後の希望。
ガラガラと、音を立てて崩れていく。
「け、結構です! 本当に、結構ですから! 失礼します!」
わたしは、回れ右をして、執務室から逃げ出した。
背後では、「ん? もう帰るのか? なんなら、コツをまとめた書物もあるぞー」という、陛下の朗らかな声が、いつまでも追いかけてきた。
書物まであるのかよ。
この国、本当に、どうなってるの。
廊下を全力で走りながら、わたしは、心の底から、確信した。
――この世界に、わたしの味方は、いない。
侍女長は、満面の笑みで「皆が見守ります」と言う。
国王陛下は、慈愛の笑顔で「案山子だと思え」と言う。
みんな、優しい。みんな、善意。みんな、本気でわたしを助けようとしてくれている。
なのに、誰一人、わたしの「無理」が、通じない。
二百五十年の時を超えて、わたしはたった一人、文明の孤島に取り残されている。
唯一、この絶望を分かち合えるとしたら。
それは、たぶん――あの、手を握られただけで耳まで真っ赤になる、不器用な旦那様、ただ一人なのだった。
ルイ君。
今度こそ、二人で、結託しよう。
この「公開○○」だけは、何としても、死守しなければならない。
夫婦初の、共同戦線である。
……まぁ、その作戦会議も、どうせ会話が続かなくて、九割沈黙になるんだろうけど。
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