第四十一話 手を握れば落ちるはず、作戦
母上からの圧に追い詰められた妙子は、ついにルイとの関係を進展させる作戦に出ます。
乙女ゲームとなろう系小説、そして友達のまた聞きで培った恋愛理論。
その完璧な知識を信じて、彼女はまず「手を握る」ことから始めようとするのですが……。
もはや、わたしは、死刑宣告を待つ囚人の気分であった。
母上の催促を放置したまま、メインルートでキャッキャウフフと青春を楽しんでいたら、間違いなく処刑される。八つ裂きである。
そこで、恋愛マスターであるわたしは、考えた。
この年頃の男の子というのは、得てして、女の子のことで頭がいっぱいなものである。だから、手の一つも握ってやれば、もう「あ、あーれー」みたいな感じで、理性のタガが外れて、いちころのはず。
だって、彼氏持ちの友達が、そう言ってたもん。
……まぁ、わたし自身に、実体験は、ない。一ミリもない。
でも、知識はある。乙女ゲームと、なろう系小説と、友達のまた聞きで培った、完璧な恋愛理論が。情報量で、勝負は決まっているのだ。
まだ心の準備はできていないけれど、背に腹は代えられない。母上からの死の宣告と、ルイ君。どっちかを選べと言われたら、そりゃあルイ君だ。どっちみち、いつかはそうなるんだから、早いか遅いかの違いでしかない。
たいしたことない。妙子、がんば。
そう自分を励まし、やってきたのは――また、例によって、あずまやである。
相も変わらず、乙女ゲームのテンプレみたいな、ケーキスタンドと紅茶。そして、ずらりと居並ぶ侍従たち。(なお、この侍従の存在が後で効いてくるのだが、このときのわたしは作戦のことで頭がいっぱいで、まったく意識していなかった)
作戦は、こうだ。
いつものように、鍵だの病院だのの話をしつつ、さりげなーく、ルイ君の手の上に、わたしの手を、重ねる。そして、見つめ合う、目と目。その後は……きゃぁー!
完璧である。完璧な作戦である。
さっそく、わたしは、獲物を狙う猛禽類のごとく、ルイ君の手を、じーっと見つめた。
すると、ルイ君も、自分の手を見て。
「……僕の手に、何かついてる?」
あ、危ない。
ちょっと、露骨すぎたか。これじゃ、ただの手フェチの変な人だ。もう少し、自然に、タイミングを計らなければ。落ち着け。落ち着くのよ、妙子。
そうして、機会をうかがうこと――二時間。
なかなか、チャンスが訪れない。
こうして神経を研ぎ澄ませ続けるのは、正直、かなりきつい。集中力が、もたない。でも、必ずチャンスは来る。来るはずだ。
そして、二時間半ほど経った、そのとき。
ついに、その瞬間が訪れた。
ルイ君が、手を、テーブルの上に、何気なく置いたのだ。
――チャーンス!
心の中で叫びながら、わたしは、すばやく、ルイ君の手を、握った。
握った、はずだった。
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