第三十九話 ルイ君の、本音
病院視察の帰り道、ルイはぽつりと自分の本音を語り始めます。
妙子が王宮で孤立していることを、彼は何も知らなかったわけではありませんでした。
不器用な夫の言葉に、妙子の中で何かが少しだけ変わっていきます。
「君が、王宮で苦しんでること、知ってた。侍女に無視されて、家臣に睨まれて、新聞に好き放題書かれて。それでも、君は逃げずに、病院のために動いてる。みんなが君を笑顔で見送ってた。あんなの、僕にはできない」
「…………」
「本当なら、君の夫として、僕が君を支えなきゃいけないんだろうけど。僕は、何もできなくて。本当に、情けなくて。それで、余計に、話しかけられなくなってね」
ルイ君は、そう言って、小さく笑った。
「夫失格だ。はは」
でも、その笑い方は。
いつもの、鍵の話をしているときみたいな、楽しそうな顔じゃなかった。
どこか、寂しそうだった。
……なんだ。
この人、ちゃんと、気にしてたんだ。
わたしが王宮で浮いていることも。侍女たちから距離を置かれていることも。新聞に叩かれていることも。全部。
興味なんてないんだと思ってた。
鍵のことしか頭にない、変な人だと思ってた。
でも、違った。
この人はこの人なりに、ずっと、悩んでいたんだ。話しかけたくても、何を言えばいいかわからなくて。支えたくても、どうすればいいかわからなくて。だから、距離ができていた。
その不器用さは――なんだか、ちょっと、わたしに似ている気がした。
そう思った瞬間、胸の奥が、きゅっと、した。
そして、その寂しそうな横顔を見ていたら、つい、言葉が出ていた。
「王太子様。今回は、わたくしの自慢の病院を見ていただいたのですから。次は――王太子様の工房を、見せていただけませんか?」
ルイ君は、ちょっと驚いた顔をして、こちらを見た。
「それは、構わないけれど。特に、君が面白いと思うようなものは、ないと思うよ」
「いいんです。わたしが、見たいんです」
わたしは、胸を張って言った。
「だって――夫が何をしているのかを知るのは、妻の責任ですから」
すると、ルイ君は。
ちょっと、照れたように、笑った。
なんだ。ルイ君、ちゃんと、そんな顔もできるんじゃない。
そう思うと――なぜだか、胸が、とくんと高鳴った。
……トゥンク、ってやつだろうか。これが。
え、待って。もしかして、わたし。
意外と、チョロいン……?
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