第三十五話 あずまやでの、気まずい時間
庭園のあずまやで、王太子ルイとのお茶会に臨む妙子。
けれど、いざ二人きりになってみると、会話はまったく続きません。
なんとか糸口を探す彼女は、ルイの趣味である「鍵」の話を振ってみるのですが……。
わたし「あ、今日は、いいお天気ですね」
ルイ「そうだね」
わたし「……………………」
紅茶を、一口。
……間が、持たない。
わたし「こ、この間は、ありがとうございました」
ルイ「なに?」
わたし「あ、その。廊下で、わたしに『応援してる』って言ってくださって」
ルイ「あぁ」
あぁ、じゃないのよ。
会話は、キャッチボールなの。投げたら、受けて、投げ返すの。それ知らないの、ルイ君!!
ぽーんと投げたボールが、ことごとく地面に落ちる。拾ってもくれない。
やっぱり、わたしの勘違いじゃなかった。この人、攻略難易度SS+。なんで、なんでなのよ。わたしのラブラブメインルートは、どこ。
このままでは、お母様への報告が「天気の話をしました」で終わってしまう。それはさすがに、八つ裂き案件である。
なんとか、糸口を。共通の話題を。
「そ、そういえば。王太子様は、いつも工房? に、こもって何をされているんですか?」
苦し紛れに、ルイ君の趣味を振ってみた。興味のあることなら、話してくれるかもしれない。
すると。
「あぁ」
ルイ君の目が、ほんの少し、輝いた気がした。
「鍵を作ったり、時計を分解して、その仕組みを研究したりしてる」
そういえば、最初にお見舞いに来てくれたときも、鍵がどうとか言ってたっけ。
「鍵を、作ってるんですか? そういうものは、鍛冶師にやらせればよいのでは?」
何気なく、そう返した瞬間だった。
「うーん、そうなんだけどね」
ルイ君の口調が、急に、滑らかになった。
「でも、なんていうかな。あの金属の光沢。歯車と歯車が、ぴたりと噛み合って、回転を伝えていくあの感じ。ひとつの鍵が、たったひとつの錠前のためだけに削り出されて、かちりと回る、あの瞬間。あれってね、見れば見るほど、不思議で、美しくて、どんどんのめり込んでいきたくなるでしょう?」
…………。
ならない。
一ミリも、ならない。
「え、ええっと。そ、そうですね。あはは」
「特にね、この間手に入れた新型の錠前なんだけど。内部のタンブラーの構造が画期的でね。従来のものだと、こう、ピンが一列に並んでいるんだけど、これは二段構えになっていて――」
それから、ルイ君の謎の鍵講座は、延々と続いた。
タンブラーがどうの。ピンがどうの。歯車の歯数の比率がどうの。
正直、半分も、いや一割も理解できない。けれど、ルイ君は珍しく、本当に楽しそうに喋り続けている。目をきらきらさせて、身振り手振りまで交えて。さっきまでの「あぁ」しか言わなかった人と、同一人物とは思えない。
無言の気まずさよりは、ましなのだろうか。それとも、これはこれで地獄なのだろうか。
判断がつかない。
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