第三十三話 世継ぎは時間の問題、という圧
母マリア・テレジアからの追伸に、妙子はようやく目をそらしていた問題と向き合うことになります。
王太子妃として求められている最大の役目。
二年分の放置された夫婦関係という重すぎる負債が、今さら彼女にのしかかってきました。
優しさを、使い切られた。
つまり今、お母様は――温情を出し尽くした状態で、ブチ切れる寸前なのである。
「ややや、やばい。どどど、どうしよう」
わかっていた。わかっていたけど、面倒くさくて(我ながらひどい)、あえて見て見ぬふりをしてきた。
やれ攻略ルートがどうの、やれイベントがどうのと、メインストーリーを完全に放置して、ずっとサイドクエストばかり走り回っていた。病院だ、ドブレだ、トイレ探しだと。
メインルート、二年放置。
……というか、待って。冷静に考えると、これ、理不尽すぎない?
だって、二年サボってたのは、わたしじゃない。マリーだ。前任者だ。わたし(妙子)が来たのなんて、ここ数か月の話。引き継ぎ資料もなしに、いきなり「二年分の夫婦関係の遅延」という負債だけがっつり相続させられて、その尻拭いをさせられてるんですけど。中途入社した会社で、前任者がやらかした二年分のクレーム処理を、初日から一人で押し付けられた気分。
でも。
そんな言い訳が、お母様に通じるわけがない。
「マリーが来てから数か月なんです」なんて言っても、「は? 何を言っているの?」で終わりだ。むしろ正気を疑われて、医者を呼ばれる。
ばれたら、殺される。
ギロチン以前に、お母様に八つ裂きにされる。
そう確信した瞬間、わたしは弾かれたように立ち上がっていた。
「侍女長! 侍女長いるかしら!」
「どうされました? そんなに慌てて」
「お、王太子様との面会って、できるかしら?」
その瞬間。
侍女長の顔が、ぱぁっと、花が咲くように輝いた。
「まぁ……! それは、それはよろしゅうございますね……!」
侍女長は、感極まったように胸の前で手を組んだ。
「その言葉を聞くのに、わたくし、二年待ちましたよ……! 善は急げ、と申します。気が変わらないうちに、すぐに手配いたします!」
そう言って、侍女長はものすごい勢いで部屋を飛び出していった。
二年待ったの、あなたもなのね。みんな待ってたのね。プレッシャーがすごい。
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