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第三話 攻略対象は、鍵オタクでした

王太子妃としての生活にも、少しずつ慣れ……るはずもない妙子。


そんな彼女のもとへ、ついに夫である王太子がお見舞いにやって来ます。


乙女ゲームなら攻略対象のはずなのに、現実の王太子は想像以上に手ごわい相手でした。


挿絵(By みてみん)

そんなこんなで数日が経った。


今日は、王太子様がお見舞いに来てくださるとの一報が入った。


王太子といえば、乙女ゲームでいうところの恋愛対象、メインストーリー、看板キャラである。そもそもわたしの旦那様でもあるわけだが――なぜか、記憶にない。


マリー・アントワネットの記憶をどれだけ探っても、王太子に関する情報がやたら曖昧なのだ。「大柄な人だったな」というくらいの断片はあるけれど、顔も、会話の内容も、ぼんやりしている。というか、ほぼない。


どうなってんだ。自分の旦那様でしょ。結婚二年目でしょ。普通もっとこう、あれやこれや、ここでは言えないような思い出のひとつやふたつあってもいいんじゃないのか。なんでこんなにスカスカなんだ。


と首をひねっていると、噂の王太子様が部屋へお越しになった。


「やぁ、マリー。階段から落ちて気を失ったって聞いたけど、大丈夫かい?」


「王太子様、ありがとうございます。まだちょっと痛むところもありますが、元気ですよ。骨折も捻挫もありませんし、もう動けます。一応、大事を取って養生させていただいているだけですわ」


「そうか。それはよかった」


――ここで、妙子の鑑定スキルが発動!


(注・ただ単に、この現実についていけず、勝手に脳内で中二病的なセリフを吐いて現実逃避しているだけである)


体格・ややぽっちゃり気味ではあるが、むしろがっしりしていて男らしい。好み。


見た目・わりとイケメン。顔のパーツは彫りが深くてとがっているけれど、ぽっちゃり成分と相殺されて、むしろ優しそうに見える。これくらいのほうが安心する。一緒にいてドキドキするイケメンより、一緒にいてほっとするタイプのほうがわたしは好きだ。


社会的地位・超大国フランス王国の、未来の絶対的権力者。ある意味、わたしの実父である神聖ローマ帝国皇帝より上とも言える。正直、いくら皇帝の娘とはいえ、十四番目の末っ子のわたしなんて、せいぜいどこぞの伯爵夫人がいいところだと思っていた。これ以上の上玉は、もう望めない。


――さて、ここで現実に戻る。


「…………」


「…………」


うっ。


会話が、続かない。


「あ、あの。王太子様は、このあとご予定などあるんですか?」


「ないよ」


「そうですか……」


「…………」


「…………」


うっ。気まずい。沈黙が重い。空気が固い。


なんとか話の糸口を探して、わたしは王太子の顔をまじまじと見た。


「あ。よく見たら王太子様、顔色があまりよろしくないですね。目の下にクマができてます。寝不足ですか?」


「あ、あぁ……。新しいタイプの鍵が出たって聞いてね」


「は? 鍵って、扉についてる、あれですか?」


「うん」


「え、なぜ鍵?」


「うん、まぁ、その……ちょっと」


「…………」


「…………」


うっ。意味がわからない。話が続かない。沈黙が、痛い。


「あ!!」


「お、王太子様、どうなされました!?」


「ちょっと鍵をばらしたままだったのを思い出した。今日はこの辺でお暇するよ」


「は、はぁ!? あ、お見舞い、ありがとうございました」


謎のセリフを残して、王太子は部屋を出ていってしまった。


嵐のように来て、嵐のように去っていった。残されたのは、わたしと、深まる謎だけである。


すると、その様子を見ていた侍女長が、満面の笑みでにじり寄ってきた。


「まぁまぁ、どうしたことでしょう。こんなに打ち解けて。ご結婚以来の快挙ですね。これはもう、お世継ぎが生まれるのも時間の問題ですわ」


え。


今の、どこが打ち解けてたの。


ものすごく気まずかったんですけど。沈黙九割でしたけど。


――続・妙子鑑定スキル!


基本スペックはかなり高い。ただし攻略難易度はSS+。クリア後に解放されるスーパーハードモードの、隠しキャラ級難易度!


なんなのよ!


確かに、マリーの記憶に王太子の思い出がほとんどなかったのは事実だけど。あれ、ただ単に面倒くさくて放置してただけじゃない! コミュニケーションを完全に怠った結果じゃない!


ううう。あんな高難易度キャラ、どうしろっていうのよ。


確かにわたしは、いつ転生してもいいようにと徹夜で乙女ゲームをやり込んできた。やり込んできたけど。まさかこんなスーパーハードモードでプレイさせられるなんて、思わないでしょ普通。チュートリアルくらい寄越しなさいよ。


おまけにこのキャラ、放っておくと最終的に「ラストギロチン」とかいう映画のタイトルになりそうなバッドエンドを抱えてるし。


もうギブ。


いつになったら、この夢から覚めるの。知らないうちにナーヴギアでもかぶせられてるなら、誰か早く外してー。


そんなことを脳内で叫んでいる横で、侍女たちは勝手に盛り上がっていた。最初の子は男の子がいいとか、いや女の子がいいとか、生まれてもいない世継ぎの性別で言い争っている。


本当にこれ、現実?

お読みいただきありがとうございました。


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