第二十九話 予算申請が、なぜか通った件
理事長室にこもり、今日も稟議書と格闘する妙子。
どうせまたヴァロワに却下されると思いながら提出した書類でしたが、返ってきたのは予想外の言葉でした。
冷血眼鏡の態度に、妙子はついにデレイベントの気配を感じ始めます。
そんなこんなで、今日もわたしは、理事長室に立てこもっている。
今日のお仕事は、ロジエやシャルティエから上がってきた要望書を見ながら、稟議書を書くことだ。
正直、どうせヴァロワに出したところで、返ってくるのは「却下」の一刀両断。もしくは「却下」プラス嫌味、というのが、すっかりお約束になっている。
数日かけて作った稟議書も、あっさり破り捨てられて、ゴミ箱行き。わたしの努力をゴミ箱に変える冷血眼鏡に、わたしは毎日、心の中で殺気を飛ばしている。
そして、いま。
数日かけて作り上げた、渾身の稟議書を、ヴァロワに提出しようとしているところだ。
正直、心臓がバクバクしている。手は震えている。
怖い。怖いけど、出さないことには始まらない。わたしは目をつむって、そーっと、ヴァロワの机の上に書類を置いた。
そして、いつもどおり、冷徹眼鏡が眼鏡をかけ直しながら稟議書を読み――いつもどおり――。
「ふむ。よろしいでしょう」
…………。
え。
今、なんつった?
聞き間違いか?
「え、い、今、なんと?」
「ですから、了承いたしました。こちらは、財務局のほうへ提出しておきます」
「え……ほ、本当にいいの? あとから、やっぱりダメだったとか、言わないよね……?」
「えぇ、大丈夫です。その辺りは私が財務局と調整いたしますので、問題ありません」
そして、ヴァロワは、ちらりとこちらを見て、こう言った。
「――よく、頑張りましたね」
えぇぇぇぇ!?
い、今、なんつった!(二回目)
よく、頑張りましたね?
あの冷血眼鏡が? あの、わたしの努力をゴミ箱製造機にしてきた男が? ねぎらいの言葉を?
もしかして。
きた?
ついに、きた?
冷血眼鏡の、デレイベント?
いや、正直この男と恋愛とか、全然想像できないんだけど。でも、乙女ゲームでは、こういうのが後からじわじわ効いてくるのよ。クールキャラっていうのは、最初はみんなこうなんだから。ツンの期間が長ければ長いほど、デレたときの破壊力がすごいんだから。
そのうちわたしも、ころっといっちゃうのかな。やだ、どうしよう。
などと、わたしが一人で勝手に頬を染めていると。
ヴァロワが、突然、口を開いた。
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