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第二十七話 病院に、逃げ込む日々

王宮から逃げるように、今日も慈善病院へやってきた妙子。


何かできることはないかと院内を歩き回るうちに、忙しそうな診察室を見つけます。


そこで彼女は、現代で一度だけ習った救急知識を思い出すのですが……。


挿絵(By みてみん)

さて。今日も今日とて、王城から逃げるように、わたしは慈善病院へとやってきた。


とはいえ、こっちはこっちで、正直やることがない。


なんだかんだと言い訳をこしらえては病院に逃げ込んでいるわけだが、あんまり暇そうに遊んでいると、王城に連れ戻されかねない。そうなれば待っているのは、公務という名の「笑顔の待機要員」のお仕事だ。あんなぎすぎすした空気の中で、何時間もニコニコ笑顔を振りまき続けるなんて、絶対に無理。表情筋が死ぬ。


ということで、わたしは何かこの病院でできることはないかと、院内の物色を始めることにした。


まず、病院といえば、診察室である。


診察室を覗いてみると、そこはもう、戦場だった。怒号が飛び交い、お医者さんや看護婦さんたちが、バタバタと走り回っている。


そして、一人のお医者さんが叫んだ。


「おい、誰か! そっちの患者の傷口、包帯で止血しておいてくれ!」


――これは。


出番である。


こう見えてわたしは、学校で止血の経験者なのだ。


いつだったか、救命救急のなんかをやってる人が学校にやってきて、ほら、あの、電気でビリッとやる機械――そう、AEDの講習をしてくれたことがあった。そのとき、ついでに三角巾を使った止血の方法も教わったのだ。


もう何か月も前のことだけど。一回やっただけだけど。


でも、やったことには変わりない。わたしはもう、経験者である。


「まかせて! わたしがやるわ!」


「あぁ、頼む……って、王太子妃様!?」


お医者さんが、ぎょっとした顔でこちらを見た。


「な、なんでこんなところに王太子妃様がいらっしゃるんですか! 大丈夫です、これは私がやりますので、王太子妃様はどうかお部屋へ――」


「何言ってんの。わたしはこう見えても経験者なのよ。まかせなさい」


そう言って、わたしは患者を、包帯でぐるぐる巻きにし始めた。


うんうん、こんな感じだったような。たぶん。


「よし、完成! 次はそっちの人ね!」


そして、勢いそのままに、わたしは手当たり次第、患者を包帯で巻きまくっていった。


充実感があった。人の役に立っているという、あのキラキラした感覚。これよ、わたしが求めていたのは。


――やがて、向こうで患者の処置を終えた看護婦さんが、こちらにやってきた。そして。


「きゃー!! だ、誰よこれ!」


悲鳴を上げた。


「ゆるゆるで、血が全然止まってないじゃない! どういう止血してんのよ! こっちの人なんて、傷口に結び目がガッツリ食い込んでるし! ちょっと、苦しんでると思ったら――もう、仕事増やさないでよぉ!」


看護婦さんが、半泣きであたふたしている。


そして、それを白い目で見ながら、口をパクパクさせて呆然と立ち尽くすお医者さん。

挿絵(By みてみん)

診察室は、まさに地獄絵図と化していた。


……あれ?


おかしいな。一回、習ったのに。

お読みいただきありがとうございました。


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