表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/35

第二十六話 強いて言うなら、自己満です

ドブレから「偽善か、自己満か」と挑発された妙子。


周囲が怒りで殺気立つ中、彼女は現代で培ったクソリプ耐性と、どこかで聞いたような名言で切り返します。


その言葉は、本人の思惑とはまったく違う形で、ある人物の心を強く揺さぶることになりました。


……うっざ。


なによ、こいつ。こういうの、いるよねぇ。


わたしが必死で振り付けを覚えて、何テイクも撮り直してアップした動画に、「ナニコレ自己満?きっも」とか書き込んでくるやつ。何度ブロックしてやろうと思ったことか。


まぁ、いいわ。


こんなこともあろうかと、わたしは日頃から勉強を重ねてきたのよ。


(注・ただ単に、授業中こっそりなろう系小説を読みふけっていただけである)


「そうね。強いて言うなら、自己満よ」


わたしは、ふっと笑ってみせた。


「わたしが、やりたいからやってるの」


(というか、逃げたら何を言われるかわかんないからね)


「やらぬ善より、やる偽善よ」


(って、なんかなろう系小説に書いてあった気がする)


「なっ……!?」


ドブレの、へらへら笑いが、一瞬止まった。


「そ、そうかよ。じゃあ、その偽善とやらで、すべてを救うっていうんだな?」


「いいえ」


わたしは、静かに首を振る。ここぞとばかりに、声のトーンを落として。


「わたしは、自分の手のひらで掴める偽善しか、しない。できないことはしない。できることだけを、やるわ」


(これも、何だったかな。なんかのアニメで、ヒロインっぽいキャラが、どや顔で決めてた気がする)


「うぐっ……」


ドブレが、言葉に詰まった。


よし。決まった。


「貴様! 誰に口を聞いているんだ! おい、衛兵、こいつをひっ捕えろ!」


シャルティエが、勢いづいて叫ぶ。


「やめなさい、シャルティエ」


わたしは、それを手で制した。そして、ドブレに向き直る。


「……まだ、わたしに何か用があるかしら? わたしは、逃げも隠れもしない。聞きたいことがまだあるのなら、いつでも相手をしてあげるわ」


(いやぁぁぁ! 一度言ってみたかったセリフを、どや顔で決められた! やばい、今のわたし、輝いてる。超輝いてる! キャーキャー!)


「……そうかい。じゃあ、お言葉に甘えて。また来させてもらうよ」


そう言い残して、ドブレは去っていった。


部屋には、完全に殺気立った空気だけが残された。


「王太子妃様。なぜ、あんな奴を庇うのですか?」


シャルティエが、納得いかない顔で詰め寄ってくる。


「あれで、いいのよ」


……決まった。


なんか今のわたし、すっごく、なろう系の主人公っぽくない?


あー、神様。やっと、やっときたのですね。現代知識無双。今まではちょっと神様を疑ってましたが、やっぱりここは異世界転生、わたし無双の世界だったんだ。やばい、今のわたし、輝いてる。


(※ただ単に、なろう系小説やアニメのセリフをパクっただけの妙子であった)


そんなことを考えながら、両手を組んで天を仰ぎ、わたしは神に祈りを捧げるのだった。


我ながら、絵になる。きっと、今のわたし、後光が差してるに違いない。



* * *


――一方、その頃。


シャルティエは、感動に打ち震えていた。

挿絵(By みてみん)

(この人は、本気だ)


ちょっと、たまにチャラすぎないか? と思ったときも、正直、あった。


(だが、俺の目が曇っていただけだ)


記者のあの侮辱を前にしても、眉ひとつ動かさず。むしろ堂々と「自己満だ」と認めたうえで、「自分の手のひらで掴める偽善しかしない」と言い切った、あの覚悟。あの信念。


(まさか、これほどの覚悟と信念をお持ちの方だったとは……!)


なんて、崇高な方なんだ。


シャルティエの目には、もはや王太子妃が、聖女か何かのように輝いて見えていた。


――かくして、ここに。


なろう系小説とアニメのセリフを、適当に並べただけの、特に深い意味のない発言に、本気で感動した、勘違い信者が一人、誕生するのであった。


なお、当の妙子は、天を仰いだまま「次はどのセリフ使お♪」などと考えていた。


二人の間に横たわる、深くて広い、認識の谷。


それに気づく者は、この場には、誰一人いなかった。

お読みいただきありがとうございました。


続きが気になる方は、【ブックマーク】やページ下部の【星評価】で応援していただけると、執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ