第二十四話 理事長室に、クレーマーがやってきた
理事長室での仕事にも少しずつ慣れ……るはずもない妙子。
そんな彼女の前に現れたのは、これまで散々好き勝手に記事を書いてきたフリー記者、レオン・ドブレでした。
相手はうさんくさいゴシップ記者。けれど妙子には、現代人ならではの炎上回避センサーがありました。
「また貴様か! 何度言ったらわかる! 王太子妃様は公務でお忙しいのだ、帰れ!」
怒鳴っているのは、舎弟一号――シャルティエの声だ。
「一度くらい、いいじゃないか。こっちは高い税金を払わされてるんだ。話を聞く権利くらい、あるだろう」
なんか、聞いたことのある声だ。でも、誰だかわからない。
ずっと揉めているし、わたしも特にやることがないので、ふらりと顔を出してみた。
「あ、いけません、王太子妃様!」
シャルティエが慌てて呼び止めるが、もう遅い。
「これはこれは、王太子妃様。やっとお会いできました。わたくし、レオン・ドブレ。しがないフリー記者でございます」
年の頃は、四十代前半くらいだろうか。くたびれたコートに、無精ひげ。妙にへらへらした笑みを浮かべている。
正直、第一印象は「うさんくさい」の一言だった。
「フリー記者?」
「えぇ。まぁ、簡単に言えば、どこの新聞社にも属していない、流しの記者ですよ。売れそうな話を見つけちゃ記事にして、その辺の新聞社に売り込んで、飯を食ってるんです」
うわぁ。
なんか、一番関わっちゃいけないタイプな気がする……。
でも、よく見ると。この顔、記者団の後ろのほうに、なんかいたような気がする。
そして――思い出した。
ドブレ。こいつ、いっつもゴシップ系の新聞で、わたしのことをぼろっくそに書いてるやつだ!
「オーストリアの浪費家」だの、「宮廷に巣食う偽善者」だの、毎度毎度、好き放題。あの記事の署名、確かにこの名前だった。
また性懲りもなく、何しに来やがった。
まぁいいわ。下手に余計なことを言って、またクソみたいな記事を書かれたんじゃたまらない。とりあえず、ここは様子見ってところね。
そう判断して、できるだけ冷静を装いつつ、わたしは口を開いた。
「で。わたしに、何か用ですか?」
「えぇ。王族の方が、突然、慈善病院の経営に乗り出すなんて。いったいどういう風の吹き回しかと思いまして」
「王太子妃様、お聞きになってはいけません。こんなハイエナの言うことなど、お耳を汚すだけです」
シャルティエが、必死で割って入る。
うーん、どうしよう。
正直、記者を無下に叩くと、絶対に炎上する。ここは適当に話を聞いて、穏便にお引き取り願うのが一番じゃなかろうか。
(注・ここでさすが現代人、変なところでリスク管理能力と炎上回避センサーが働く。スルースキル。それこそが、ある意味、現代人の特殊能力と言えるのかもしれない)
――というのも、実はわたし、前世では女子高生インフルエンサーだったりする。
なんと、フォロワー数三百人。最高で、年間PV千五百を記録した、超人気(?)インフルエンサーの過去を持つのだ。
まぁ、主に踊ってみた系をやりまくってたら、なんか増えた、ってだけなんですけどね。
でも、これが唯一にして最大の、わたしの自慢だったりする。だから、あんまり叩かないで、できれば「すごいね」って上げてほしい。切実に。
ともあれ、三百人という大所帯(当社比)を抱えていた身としては、こういううさんくさい絡みへの対処は、心得ているつもりである。
「シャルティエ、下がりなさい。何の用か知らないけれど、話があるのなら――(暇つぶしに)聞いてあげるわ」
「王太子妃様……くっ」
こうして、わたしたちは理事長室に戻り、ドブレの話を聞くことになった。
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