第二十二話 嫌われ役を、引き受ける男
宮廷が財務局への反発を強める中、財務長官テレーはさらに先を見据えていました。
王族の支出削減は、あくまで始まりにすぎません。
彼が本当に狙っていたのは、長く手つかずのままだった聖職者と貴族の特権でした。
一方、その頃。財務局の執務室では。
「長官。さすがに、やりすぎじゃないですか?」
一人の役人が、おそるおそる、テレーに進言していた。
「今や宮廷内は、不満だらけです。そして、その怒りが、ぜんぶ財務局に集中してきております。それに……あんな小娘を利用するのは、どうかと」
「うるさい」
テレーは、書類から顔も上げずに、ぴしゃりと言った。
「使えるなら、死にかけの老人だって使ってやる。売れるものなら、二束三文のゴミだって、高値で売りつけてやる。我が国の寿命は、もう尽きようとしているのだ。体面など、知ったことか」
「はぁ……まぁ、わかるのですが。良心の呵責といいますか、なんといいますか……」
「しのごの言ってないで、働け。当面の標的は、国民だ。増税計画は、進んでいるのか?」
「は、はい。順調に進んでおります。近々、正式に発表できる段階になるかと。……しかし、長官。あちらも、本当にやっていいものか。チームのメンバーからも、疑問の声が多く上がっておりまして」
「ふん。だが、それも所詮は、つなぎにすぎん」
「つなぎ……と、おっしゃいますと?」
テレーは、机に広げた一枚の地図を、とんとんと指で叩いた。国中の、教会領と貴族領が、びっしりと色分けされた地図だった。
「痩せこけた民から、これ以上搾り取ったところで、もう一滴も出やしない。本当の獲物は――こっちだ。のうのうと祈っているだけの坊主ども。広大な領地にあぐらをかいた、貴族ども。あそこにはな、手つかずの富が、唸るほど眠っているのだ」
役人の顔が、さっと青ざめた。
「ま、まさか。聖職者と、貴族に……課税を? あの方々は、古くから免税の特権を……何百年も、一銭たりとも納めたことのない……!」
「だからこそ、だ」
テレーは、薄く笑った。
「払ったことのない者ほど、取られるときの悲鳴は大きい。さて、どんな顔で泣きわめくか、見ものだな」
「長官……正気ですか? そんなことをすれば、国中の坊主と貴族を、まとめて敵に回しますぞ……!」
「言いたい奴には、言わせておけ」
テレーは、ようやく顔を上げた。その目には、もはや迷いも、ためらいもなかった。
「王太子妃の次は、王太子か。王族か。はたまた、坊主か、貴族どもか。利用できるものは、全部使う。崩せる聖域は、片端から崩す。使って、使って、使い切るまで、使い切ってやるわ」
冷えきった声が、執務室に響いた。
この男は、本気だった。
国を救うためなら、悪役にもなる。誰に何と言われようと、嫌われ者になろうと、構わない。沈みかけたこの船を、たとえ自分の手を汚してでも、引き上げてみせる――そう、固く心に決めた、ある意味では、誰よりも国を憂う男だったのである。
そしてその「使えるもの」の筆頭に、わたし――マリー・アントワネットが、しっかりと数えられていることなど。
慈善病院で理事長の椅子を眺めて「うわ、押し付けられた」と頭を抱えていた、当のわたしは。
やっぱり、何ひとつ、知らないのであった。
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