第二十話 理事長を、押し付けられた件
改修された慈善病院を見て、少しだけ報われた気持ちになった妙子。
しかし理事長室には、なぜか彼女のために用意された豪華な机と椅子が置かれていました。
新聞に盛られた一文は、いつの間にか彼女を新たな責任者へと押し上げていたようです。
そこまでは、よかったのだ。
ところが。
よく見ると、なぜか一つだけ、この質素な理事長室に、やたら豪華な椅子と机が置いてある。
明らかに、浮いている。簡素な部屋に、一点だけ、ぴかぴかの高級家具。完全に、そこだけ別世界。
あまりにそぐわない家具が気になって、聞いてみた。
「ところで、そこのきれいな椅子と机は、何なのですか?」
すると、ロジエが、にこやかに答えた。
「はい! 新しい理事長であられる、王太子妃様のために、特別に宮殿から送られてきたものでございます!」
「……はぁ?」
新しい、理事長?
王太子妃様の、ために?
あまりの驚きに、勢いよくヴァロワのほうを振り返る。
ヴァロワは、眼鏡をかけ直しながら、しれっと言った。
「王太子妃様が、経営に参加されると伺いましたので。準備しておきました。これから、病院のため、社会のため、お励みくださいませ」
…………。
どう考えても。
厄介な仕事を、まるごと、なすりつけられたとしか思えない。
そういえば、と思い出す。あの日の新聞。でかでかと躍っていた「王太子妃、慈善病院の運営に携わる」の見出し。あれを真に受けて――いや、真に受けたふりをして、こいつら、本当に理事長の椅子を用意しやがったのだ。
だれだよ、あの新聞書いたやつ。盛った記者、出てこい。
まあ、いい。
天皇家と赤十字は、一心同体。
フランス王家と慈善病院も、きっと一心同体……たぶん。
こんなに記者がたくさんいる前で、今さら「やりません」なんて否定したら、あとが怖い。また何を書かれるかわかったものじゃない。もう、やってやるわよ。
というか、全部、シャルティエ――いや、舎弟一号にやらせればいいのよ。元をただせば、こいつが直談判してたのを盗み聞きしたのが始まりなんだから。こいつのせいなんだから。
(注・いいえ、妙子のせいです)
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