第十九話 病院が綺麗になったと、思ったら
慈善病院の改修が終わったと聞き、再び視察に向かうことになった妙子。
前回の惨状が忘れられず気が進まない彼女でしたが、目の前に現れた病院は、以前とは見違える姿になっていました。
宮殿で孤立する日々の中、妙子は久しぶりにまっすぐな感謝を向けられることになります。
それから、数か月が経った、ある日のこと。
息せき切って、シャルティエがやってきた。
何事かと思ったら、慈善病院の改修が終わったので、視察に来てほしいとのことだった。
……正直、行きたくない。
あの霊廟? リアルバイオハザード? みたいな、臭くて怖くて床が腐ってるところに、もう一度行けって? 何を言ってやがる。あのトラウマ、まだ鼻の奥に残ってるんですけど。
とはいえ。
宮殿にも、いたくない。
なにせ侍女には無視され、家臣には睨まれ、義叔母様にも距離を置かれ、唯一にこやかなのは品定めしてくるテレーだけ。この針のむしろみたいな宮殿にいるくらいなら、まだ病院のほうがマシかもしれない。少なくとも、病院の人たちはわたしを睨まない。
逡巡した挙句、「宮殿にいるよりマシ」というなんとも後ろ向きな理由で、わたしは視察を決めた。
ヴァロワに「視察に行ってもいい?」と確認したところ――そう、今やわたしの行動には、いちいち監視役の許可が要るのである――ちょうど確認も兼ねて、そろそろ見に行きたかったところです、という返事。というわけで、今回もメディアを引き連れ、大名行列を仕立てて行くこととなった。
そして、いま。
病院の、前。
……ナニコレ。
全然、違うじゃん。
ちゃんとペンキまで塗ってある。ぼろっちいことはぼろっちいけど、ちゃんと「病院」になっている。さらに、ぼろっちいけど新しい棟まで建っていて、増設までしたらしい。
前回、中に入ってひどい目にあわされたことを思い出し、入ろうか、やめようか、入口でしばし悩む。だが、ヴァロワを先頭に、一行がぞろぞろと中へ入っていったので、わたしもしぶしぶ後に続いた。
そして、驚いた。
あまり、臭くない。
廊下で寝てる人もいない。死体も、転がっていない。相変わらずぼろいけど、ぼろいだけだ。
ベッドは、相変わらず一人一台とはいかず、二人三人で共同利用という状況ではあるけれど。床に寝るよりは、はるかにマシだろう。もう少し清潔にすれば、ただの「古い病院」に見えなくもない。
ちらりとシャルティエを見ると、彼は興奮していた。
そして、わたしにあれやこれやと、必死で説明してくる。改修のここがこうで、予算をこう工面して、患者の数がどうで――。
あの、顔を近づけないでほしい。むさくるしい。唾が、顔にかかる。距離感、距離感を大事にして。
病院を一回りした後、理事長室で歓談となった。
一緒についてきた記者たちを見ると、みな一様に驚き、うんうんと頷いている。前回の青ざめた顔とは大違いだ。割と高評価のようである。これで少しは、あの「国を傾ける外国女」みたいな悪評も、解消できるかもしれない。少しだけ、期待が持てそうだ。
「ロジエ理事長、お久しぶりです」
そう挨拶すると、ロジエは「ありがとうございます、ありがとうございます」と繰り返しながら、なんと泣き出した。鼻水まで垂らしている。
さすがに、ちょっと引いた。
でも――宮殿とのあまりの違いに、ちょっとだけ、嬉しくなってくる。誰かに、まっすぐ感謝されるなんて。こんな気持ちになるのは、いつ以来だろう。ルイ君が励ましてくれて以来だろうか。
ちょっといい話の流れである。
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