第十八話 予想外の、味方
財務省クーデターの余波で、宮廷の中で孤立していく妙子。
誰からも責められ、味方などいないと思っていた彼女の前に、思いがけない人物が現れます。
それは、これまでほとんど言葉を交わせなかった夫、王太子ルイでした。
その日も、わたしは食事をかき込んで、逃げるように部屋へ戻ろうとしていた。
廊下を、うつむいて、早足で歩く。誰とも目を合わせたくなかった。
そのとき。
「マリー」
突然、呼び止められた。
びくっとして振り返ると、そこに立っていたのは――王太子様、ルイ君だった。
あまりのことに、驚いた。だって、お見舞いに来てくれたあの日以来、まともに会話らしい会話なんて、していなかったのだ。沈黙九割の、あの気まずい再会以来。
「こ、これは王太子様。ご機嫌麗しゅう。このようなところで、どうなされました?」
不審に思いつつも、とりあえず、いつものよそ行きの挨拶をする。
すると、ルイ君は、少し言葉を探すように間をおいてから、ぽつりぽつりと話し出した。
「ねぇ、マリー。ぼくは、君がやってることは、正直、よくわからない」
ですよね。わたしもよくわからないままやってるんで。
「けど」と、ルイ君は続けた。「君のやってることは、間違ってないと思う」
え。
「本当なら、君の旦那として、ぼくが君を支えなきゃいけないんだろうけど。ぼくは……こんなことを言うくらいしか、できないけれど」
ルイ君は、まっすぐにわたしを見た。あの、目の下にクマを作って鍵がどうとか言っていた、不器用な人が。
「応援してる、から」
それだけ言って。
ルイ君は、くるりと背を向けて、行ってしまった。
言いたいことだけ言って、さっと立ち去る。相変わらず、会話のキャッチボールが下手な人だ。返事をする隙もない。
でも。
わたしは、その場に立ち尽くしていた。
味方なんて、もう誰もいないと思っていた。この宮殿には、敵しかいないと思っていた。
なのに。
こんなに近くに。こんなにも頼もしい人が、いたなんて。
ずっと記憶になくて、会話も続かなくて、攻略難易度SS+の隠しキャラだと思っていた、わたしの旦那様。
その人が、誰よりも先に、たった一人、わたしの味方でいてくれた。
気がつけば。
わたしの目からは、あふれんばかりの涙が、ぼろぼろとこぼれ落ちていた。
廊下の真ん中で、一人、声を殺して泣いた。
おまるで泣いたことはあっても(羞恥で)、こんなふうに泣いたのは、この世界に来てから、初めてだった。
ルイ君。
あなたのこと、攻略難易度SS+とか言って、本当にごめん。
あなたは、この世界でいちばん、優しい人かもしれない。
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