第十七話 義叔母様たちの、受難
財務省による改革が動き出し、宮廷内は大混乱に陥ります。
妙子の発言をきっかけに、王族の食事や支給金、侍女たちの仕事にまで影響が及び始めました。
そしてその反発は、言い出しっぺと見なされた妙子自身へ向かっていきます。
あの財務省クーデターが起きてから、数日が経った。
宮廷内は、蜂の巣をつついたような大騒ぎである。
そしてわたしはといえば、侍女たちが、一切、口をきいてくれなくなった。
聞こえてくるのは、わたしへの陰口ばかりだ。曰く、テレーの操り人形。曰く、自分の趣味に国費をつぎ込む金食い虫。曰く、宮廷に取り憑いた病魔。さんざんな言われようである。
新聞を見れば、論調は見事に三つに割れていた。
福祉系の新聞は、わたしを聖女のように持ち上げる。経済系の新聞は、稚拙な政治家だと批判する。そして政府寄りの新聞は、偽善に金をつぎ込んで国を傾ける外国の女、とこき下ろす。
唯一の救いは福祉系だが、福祉系の新聞は発行部数も少なく、正直、心もとない。多勢に無勢である。
そんな、針のむしろのような毎日が始まった。
ある日の、夕食。
今や、財務局の管理課に取り仕切られることになった食事は、それはもうヘルシーだった。お腹に優しい、健康的な食事――といえば聞こえはいいが、要するに、肉なし、野菜ばかり。おかずも少ない。とても、大国フランスの王族の食卓とは思えない、質素なメニューである。
そして、それを恨めしそうに睨んでくる、家臣たち。
国王陛下は、何もおっしゃらないけれど、うんざりした顔をしている。わたしの旦那であるルイ君は、何を考えているのかわからない顔で、ただ黙々と食べている。弟のルイ君(ややこしいが、王太子様と同じ名前の弟君だ)は、もともと胃に優しいさっぱりした食事が好みだったらしく、まんざらでもない様子。けれど、もう一人の弟、シャルル君は、露骨に不満顔で。
「えぇ、また野菜だけ? たまにはお肉が食べたいよー」
と、ぶーたれている。
ぐさっ。
子どもの素直な不満が、いちばん刺さる。
そして、下の義叔母様が口を開いた。
「ねぇお姉様。今日、財務局の役人が来て、今月からわたくしの毎月の支給額を減らすって言ってきたんですの。それだけならまだしも、わたくしのドレスまで確認させろと言ってきて。頭に来たので、部屋から追い返してやりましたわ」
姉である義叔母様――いつもわたしの面倒を見てくれている、あの優しい義叔母様が、ため息をついた。
「それは大変だったわね。わたしのところにも、今日来たのよ。はぁ……どうしてこんなことに。ねぇ、マリー」
義叔母様が、こちらを見た。
「言ったわよね。気をつけなさいって。確かに、このご時世、王族も何かしなければと、わたくしも思ってはいたわ。いつかこういう日が来るだろうとも、覚悟はしていた。けれど――せめて、やる前に一言、相談してほしかったわ」
ぐさぐさっ。
優しい人の、静かな失望。
これがいちばん、こたえる。
あの日以来、正直、食事の味なんて、まったくしない。ただ機械的に口に運んで、食べ終わったら逃げるように部屋へ帰る。そんな毎日だった。
数少ない味方だと思っていた義叔母様にすら、距離を置かれてしまった。侍女には無視され、家臣には睨まれ、王族には呆れられ、テレーだけがにこやかに近づいてきて、品定めするように笑う。
味方が、いない。
この広い宮殿に、わたしの味方は、もう、誰一人いない。
異世界転生して、現代知識でみんなを救って、ちやほやされて、ハッピーエンド。
そんな物語は、どこにあるんだろう。
わたしがいるのは、ただ、寒くて、ひもじくて、誰からも嫌われる、たった一人の場所だった。
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