第十六話 財務省クーデター、現代知識を逆利用される
ついに現れた有能そうな眼鏡の官僚。
これで現代知識無双が始まるかと思いきや、財務長官テレーが用意していたのは、妙子の発言を逆手に取った容赦ない改革案でした。
味方に見えた財務省は、果たして本当に味方なのでしょうか。
「では、まず」と、イケメン眼鏡が口を開いた。「王太子妃様のドレスの管理についてですが。今後は、財務局の管理課にて取り扱わせていただきます。さらに、ドレスの新規購入につきましても、一度、財務局が精査したうえで、許諾を出させていただく形とさせていただきます」
「え!?」
後ろで聞いていた侍女たちも、動揺を隠せずざわめいた。
ドレスの管理を、財務局が? 新規購入には、いちいち財務局の許可が要る?
「どうされましたかな?」テレーが、わざとらしく首をかしげる。「この案は、もともと王太子妃様のご発案だと伺っておりますが?」
「え、いや。でも、これは国防とか、侍女の給料とか――」
「えー、ですから、人材も大幅に削減を予定しております」イケメン眼鏡が、淡々と続ける。「王太子妃様は、朝のドレス着用の伝統にご不満をお持ちだと伺いましたし。そもそも我々の試算では、これほどの人数は必要ないと判断いたしました」
「え、いや、そんな急に言われても困ります」
「変ですね」テレーが、目を細める。「王太子妃様は、慈善病院の経営に出資されるのですよね? 当然、資金が必要になります。我々は、その資金を捻出するため、全力でサポートさせていただこうというのですよ」
――やられた。
ようやく、わたしは理解した。
これは、援助でも、協力でもない。
わたしが思いつきでぶち上げた「経費削減」と「慈善病院」を、テレーは逆手に取ったのだ。「王太子妃ご自身がそう望んだのだから」という大義名分のもとに、王宮中の予算を、王族の支給金を、侍女の人員を、根こそぎ削りにかかっている。そしてその矢面に立たされるのは、すべて――言い出しっぺのわたし。
入れ知恵したと噂を立てられたなら、本当に入れ知恵してしまえばいい。
テレーは、そういう手に出たのだ。
「あ、申し遅れました」
イケメン眼鏡が、すっと一礼した。
「私、エティエンヌ・ド・ヴァロワと申します。これからは、王太子妃様の秘書官として、財務局との橋渡しを担当させていただきます。御用の際は、何なりとお申しつけくださいませ」
そう言って、眼鏡を、きらりと光らせた。
監視役じゃん。
橋渡しっていう名の、お目付け役じゃん。
呆然としつつ、助けを求めて、そっとシャルティエのほうを見た。
シャルティエは――目を、そらした。
「……あいつ、裏切りやがった」
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