第十四話 新聞に盛られ、標的にされる
慈善病院で思わず声を上げた妙子。
しかし翌日の新聞は、彼女の発言を大きく盛り、王宮中に新たな波紋を広げてしまいます。
その騒ぎは、財務長官テレーのもとにも届いていました。
次の日。
新聞には「王太子妃、慈善病院の運営に携わる」という見出しが、でかでかと躍っていた。
え。
携わる? わたし、そんなこと一言も言ってないけど。「テレーに文句を言う」とは言ったけど、「運営に携わる」なんて、これっぽっちも。記者の脚色か。盛りやがったな、どこのどいつだ。
王宮では、その話題で持ちきりだった。
そして同じころ、財務長官の執務室では――。
「あのくそ王太子妃、何をやってやがる!」
執務室の中に、怒声が響き渡っていた。叫んでいるのは、財務長官のテレーだ。
「行動も言動も、拙くて危なっかしい。だが、やれ伝統だ儀式だと無駄遣いばかりする王室の中で、唯一、国費を気にして削減しようと動いた点だけは、評価していた。していたんだ。なのに――その結果がどうだ。まるで、この私が王太子妃を操って王宮の予算を奪い取ろうとしている、などという根も葉もない噂を立てられ、ひどい目にあわされた。そして今度は何だ。救いようのない孤児や病人のために動く、だと? いったい何を考えていやがる。国費を何だと思っていやがるんだ。こっちはな、王族のお遊びに付き合っている暇など、ないんだよ……!」
テレーの怒りは収まらない。手に持っていた水差しを、怒りに任せて壁に投げつけた。陶器の砕ける、派手な音が響く。
「はぁ、はぁ……。いったい、どうすればいい……」
肩で息をしながら、テレーはぐしゃぐしゃと髪をかき乱した。
そして、ふと、その動きが止まった。
「……待てよ」
何かを思いついた顔。
「私が王太子妃に入れ知恵した、と世間が言うのなら。それを――本当にしてしまえば、いいのではないか?」
テレーの口の端が、じわりと吊り上がっていく。
「ふっ。ふっふっふ。……はぁっはっはっは! そうだ、そうだとも。我ながら、素晴らしいアイデアだ。周りが私のことを何と言おうが、構うものか。悪魔に魂を売ってでも、この国だけは、絶対に潰させはしないぞ」
割れた水差しの破片を踏みしめながら、財務長官テレーは、ひとり、昏く笑っていた。
――こうして、後に「財務省クーデター」と呼ばれることになる嵐が、静かに、その幕を開けようとしていた。
王太子妃マリー・アントワネット、その本人だけが、まだ何も知らないまま。
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