第十三話 理事長ロジエと、対面する
慈善病院の惨状を目の当たりにした妙子は、最後に理事長ロジエと対面します。
そこで聞かされたのは、予算削減によって施設が追い詰められているという現実でした。
軽い視察のつもりだった妙子は、ついに見過ごせない一線に触れてしまいます。
最後に、理事長室へ通された。
「こちらが、当病院の理事長、ピエール・ロジエ氏です」
「お初にお目にかかります。ピエール・ロジエと申します。ロジエ、とお呼びください」
理事長室は、がらんとした部屋に机と椅子が置いてあるだけの、ひどく簡素な部屋だった。けれど、あのホラーのような病室を見た後では、不思議と、とても綺麗で立派な部屋に感じられた。人間の感覚なんて、相対的なものである。
「はじめまして。はにゅ……マリー・アントワネットです。よろしく。さっそくだけど――ここは、病院よね?」
「はい。その通りでございます」
「正直、いろいろ驚いたけれど。他の病院も、こんな状態なの?」
「いえ。民間の病院や、貴族向けの病院は、ここまでひどくはございません。ここは慈善病院ですので、患者からほとんどお金をいただかずに運営しております。それゆえ、このような惨状になってしまうのです」
「そう、なのね。大変ね」
「はい。ですが、ここに入れる者は、まだ幸せなほうでございます。貧困にあえぐ多くの者は、雨露をしのぐ場所すらなく、道端で朽ち果てていく者も少なくありません」
「そう、なのね……」
軽い気持ちで来たことが、だんだん恥ずかしくなってくる。
「ですが」と、ロジエが続けた。「来年からは、予算が大幅に削減されると伺っております。それゆえ、この施設も、閉鎖を考えております」
「え。じゃあ、ここにいる者たちは、どうなるの?」
ロジエは、苦渋に満ちた顔をした。そして、しばらくの沈黙のあと、ぽつりと言った。
「処分、でございます」
え。
今、とんでもないことを口走らなかった、このおじいさん。
「え、ええっと。よく聞こえなかったんだけど」
「はい。処分させていただきます。当然、自力で歩ける者には施設から出ていってもらいますが。歩けない者は……苦しまぬよう、こちらで処分させてもらう予定でございます」
処分。
人間を。歩けないから。お金がないから。
「そんなの、おかしい!」
気づいたら、叫んでいた。
ロジエとシャルティエが、同時に、ぎょっとした顔でこちらを見た。
「そうはおっしゃられましても、我々もどうしてよいのか……」
「ねぇ、シャルティエ。なんとかならないの?」
「は、はい。私も財務長官に直接陳情してみたのですが……。王太子妃様もご覧になったとおり、まったく相手にされず。力及ばず……」
笑顔を振りまいて、握手して、いい評判をもらって帰る。
そんな計画は、もう、わたしの頭から完全に消し飛んでいた。
「わかったわ。だったら、わたしがテレーに直接言ってやる。さすがに、こんなのありえない」
わたしが思わず大きな声で言い放つと、周囲の記者団から「おぉぉ」というどよめきが上がった。ロジエとシャルティエは、信じられないものを見るような目で、こちらを凝視していた。
このときのわたしは、勢いで口走っただけだった。
本気で世直しを誓ったわけでも、崇高な使命に目覚めたわけでもない。ただ、目の前の光景があんまりにもひどくて、反射的に叫んでしまっただけ。
なのに。
この一言が、後々とんでもないことになるなんて、このときのわたしは、まだ知る由もなかったのである。
お読みいただきありがとうございました。
続きが気になる方は、【ブックマーク】やページ下部の【星評価】で応援していただけると、執筆の励みになります。




