第十二話 病院が、ポンコツすぎる件
評判回復のため、慈善病院を視察することにした妙子。
けれど、そこで彼女を待っていたのは、笑顔で握手をして帰れるような場所ではありませんでした。
軽い思いつきで始めた視察は、想像を超える現実を突きつけてきます。
そんなこんなで、慈善病院の視察当日。
目の前には、目的地の病院が――。
……てか、病院?
入口の扉、壊れてない? なんか蜘蛛の巣張ってない? おまけに奥のほうから、ものすごい死臭というか、腐敗臭が漂ってくるんですけど。
なにここ。お化け屋敷? バイオハザード7のVRより怖いんですけど。
「……太子妃様。王太子妃様」
はっ。「な、なに?」
「顔色が優れないようですが、大丈夫ですか?」
「だ、だだだだいじょうぶよ。なんともないわよ。ほほほほ」
完全に顔が引きつっているのが、自分でもわかる。
わたし、病院に来たのよね? 間違って、死体安置所に来たわけじゃないわよね?
「では、中で理事長がお待ちしております。メディアの方々も、どうぞ中へ」
促されるまま、おっかなびっくり、扉をくぐる。
ぎぃぃぃぃ、と床が嫌な音を立てた。
「あ、そちらはお気をつけください。床が腐っておりますので、踏み抜くと抜け落ちてしまいます」
え。なにここ。どういうこと。
病院って、無機質で、いつも消毒液のにおいがして、どことなく緊張する場所のことだよね? あんまり好きじゃないけど。少なくとも、床が腐ってて踏み抜くような場所ではないはず。
中に入ると、強烈な腐敗臭が、容赦なく鼻を突き刺してきた。
すると、シャルティエがすっとハンカチを取り出した。「王太子妃様、これで鼻をお覆いください」。よく見ると、シャルティエ自身もハンカチで鼻を押さえている。
言われるがまま、わたしもハンカチで鼻を覆い、さらに奥へと進む。
すると、通路に、動かない人が――。
人?
死体?
通路に、人が倒れている。ぴくりとも動かない。
「あの、こちらは……?」
「はい。本日、お亡くなりになった方かと思います。もう死体安置所はいっぱいで、入りきらないものですから、通路にお置きするしかない状態でして。ご遺体の処理も、お金がないものですから、何か月も……このままなのです」
ひぃぃぃ。
なんなのよ、ここは。
こんなの、病院って言わない。
そして、さらに促されるまま、今度は病室のほうを見て回る。
ベッドどころか、部屋にも入りきれず、床で寝ている包帯まみれの病人たちが、あちこちで低く唸っている。孤児らしき子どもたちは、げっそりとやせ細り、目だけをぎょろぎょろさせている。学校で「アフリカの子どもたちに募金を」と呼びかけるときに見せられる、あのポスターに出てくる子どもたち。あれと同じ絵面の子どもたちが、よどんだ目をして、ぺたりと座り込んでいる。
これは、現実だろうか。
驚いているのはわたしだけかと思って、後ろをぞろぞろついてくる記者たちを振り返ってみた。
記者たちの顔も、引きつっていた。
彼らもまた、初めて目にするこのあまりの惨状に、言葉を失っているようだった。新聞のネタになる、くらいの軽い気持ちで来たであろう彼らも、笑顔の握手会を撮りに来たであろう彼らも、今はただ、青ざめている。
笑顔を振りまいて握手して帰る、なんて。
そんな、のんきな視察になるはずだった、わたしの計画は、入口の時点で完全に崩れ去っていた。
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