第十一話 慈善病院に、視察に行きます
慈善病院の予算問題を耳にした妙子は、ようやく自分にもできそうなことを思いつきます。
貧しい人々を慰問し、その様子を新聞に載せてもらえば、王太子妃としての評判も上がるはず。
軽い気持ちで視察を決めた彼女ですが、義叔母様は何かを察しているようでした。
そういえば、日本の天皇家って、確か赤十字の名誉総裁とかやってたよね。あと、どこかの皇族の方が、よくわからない協会の総裁をやってたり。何かあるたびに慰問だ視察だと言って、病院だの被災地だのを回ってるの、朝のワイドショーでしつこいくらい流れてたっけ。
そうよ、これよ。
節約計画も賭博禁止計画も全部失敗したけれど、要は、貧しい人たちにヘラヘラ笑顔を振りまいて、握手でもしてやればいいのよ。それだけで「お優しい王太子妃様」の評判が立つ。だって、皇族の方に手を握られて、泣いて喜んでるおじいちゃんおばあちゃん、ニュースで何度も見たもん。
金髪なのにイケメンじゃないから、こいつを利用するのが正しいイベントなのか若干不安だけど。今は背に腹は代えられない。間違ってたら、そのとき切り捨てればいいし。
「ねぇあなた。その話、とっても興味を惹かれるわ。ぜひ、詳しく聞かせてくれないかしら」
その後、詳しく話を聞いた。
要約すると、まあありがちな貧民収容施設で、予算不足でとにかく大変。先の大戦で負傷して働けなくなった者、身寄りのない孤児、などなどを抱えていて、それはもう大変、という感じ。
これは使える。
使えるとわかれば、行動は早い。
「話はわかったわ。でも、話だけでは見えてこないことも多いでしょう。一度、視察に行きましょう」
「え! 王太子妃様、直々にお越しいただけるのですか?」
「えぇ、そうよ。あと、メディアにも見せましょう。いくつかの新聞社に声をかけておいてちょうだい」
握手して、笑顔を振りまいて、それを新聞に載せてもらう。完璧な作戦である。
「わ、わかりました! 早速、準備させていただきます。ありがとうございます!」
そう言って、シャルティエは走って――いや、走ってるのかあれ? という微妙な速度で、そそくさと庁舎へ戻っていった。運動不足、深刻である。
そしてその夜。夕食の席で、義叔母様から声をかけられた。
「ねぇマリー。あなた、慈善病院に視察に行くんですって?」
「はい。社会勉強も兼ねて、視察してみたいと思います」
(耳はやっ。さすが海千山千の王女様。情報網どうなってんの)
「まぁ、あなたももう立派な大人だし。やることにいちいち口を出す気はないけれど。気をつけてね」
「ありがとうございます」
(ん? 病院に行って、笑顔を振りまいて帰ってくるだけなのに。何を気をつけるんだろう?)
このときのわたしは、まだ何もわかっていなかった。
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