↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
116/116

第百十六話 一部完(ホットニュース)


朝。


目が覚めて。


天蓋付きの、やたら立派なベッドの天井を。ぼんやりと、見上げる。


……あ。


これ。


転生した日の、朝と。まったく同じ、構図だ。


あの日は。「ここはどこ」だった。


今日は。


「わたし、何やっちゃったの」だ。


出来事だけ、並べれば。これは、いわゆる。リア充、というやつである。


でも。


ぜんぜん。リア充って、感じじゃ、ない。


昨夜の記憶が。断片的に。よみがえってくるたびに。


「うわあああ」と。叫んで。布団をかぶりたくなる。


リア充より。


リア、重。


* * *


そうこうしているうちに。


侍女たちが。ぞろぞろと。部屋に入ってきた。


そして。


全員。


生暖かい目で。こっちを、見てくる。


「おめでとうございます、王妃様」


「よろしゅうございましたね」


「長かったですねぇ」


……いやすぎる。


やめて。その目。やめて。


わたしは。布団を頭までかぶって。亀のように。丸くなった。


* * *


けれど。


これは。まだ。序の口だった。


そう。思い知らされるのは。部屋を出た、あとのこと。


宮殿内では。


さまざまな。議論が。巻き起こっていた。


貴族A「聞いた話じゃ。王妃が王陛下に『わたしに任せろ』と啖呵を切ったらしいが。終始、受け身だったよな。今やこの国の英雄扱いだというのに。情けない」


貴族B「いやいや。女性はそれくらいがいいんだよ。むしろ、萌える。ギャップというやつだな」


貴族C「しかし、あの配置は。少々、窮屈ではなかったか。わたしなら。もっとこう、寝台を広く使ってだな」


貴族D「何を言っている。王と王妃は、初めてだったというではないか。なんとも初々しくて。私的には、逆に感動してしまったぞ」


貴族E「うーむ。終始、お互い硬くて、ぎこちなかったよな。あまり楽しんでおられなかった。ああいう場合は。女の子が生まれやすいそうだぞ」


貴族F「なるほど。最初の子は、女の子か。まぁ、王も王妃もまだ若い。あわてることは、ないな」


* * *


……。


……。


なんなの。


なんなのよ。この。生き地獄。


にわか専門家と。にわか評論家が。わきまくって。


人の。人生で一番、恥ずかしい夜を。


勝手に。好き放題。


品評しやがって。


前世のSNSの。クソリプ欄より。ひどい。


あっちはまだ。画面を閉じれば。消えた。


こっちは。廊下を歩くだけで。耳に、飛び込んでくる。


「いやぁぁぁぁ!!」


わたしは。廊下の真ん中で。頭を抱えて。走り出した。


……その日。


王妃が全速力で廊下を駆け抜けた、という目撃談まで。


新たな議論の。ネタに。なったらしい。


もう。いやだ。この国。


* * *


――同じころ。病院にて。


ドブレ「なぁ。なんで理事長室、立ち入り禁止の張り紙が貼ってあるんだ?」


シャルティエ「いやぁ……。王妃様が。朝早くに来たかと思ったら。部屋の前に張り紙して。『絶対入るな』と」


ドブレ「……あぁ」


シャルティエ「……あぁ」


ドブレ「なるほど」


シャルティエ「なるほど、ですね」


二人は。それ以上。何も言わず。


そっと。理事長室の前を。通り過ぎた。


……ちなみに。


その日のわたしは。


理事長室で。机に突っ伏して。ひたすら。書類の山に。逃げ込んでいた。


仕事。仕事。仕事は、いい。


仕事は。何も。品評してこない。


* * *


そして。


それから。ほどなくして。


その、ニュースは。


国中を。駆け巡った。


『王妃、懐妊』


新聞という新聞の。一面が。その四文字で。埋め尽くされた。


街は。お祭り騒ぎになった。


パン屋の前でも。広場でも。酒場でも。


「王妃様がご懐妊だってよ」


「めでたいじゃないか」


「男か? 女か?」


「王家に世継ぎだ。久しぶりの、明るい話だな」


あれほど。王宮を叩いていた新聞が。


あれほど。怒りに燃えていた民衆が。


たった一つのニュースで。


ころりと。話題を。変えた。


……手のひら返し。


もう。何度目だろう。


数えるのも。やめた。


* * *


でも。


今回ばかりは。


わたしは。文句を、言わない。


だって。


これは。


わたしが。自分で選んで。自分で。ぶちかました。ネタ、だから。


「ポジティブなネタを提供して。返り討ちにするのよ」


義叔母様の、言葉。


「王宮のことは。わたしに、任せなさい」


わたしの、啖呵。


……まさか。


その啖呵の中身が。


あれだったとは。


言った本人も。思って、いなかったけれど。


* * *


――財務省、長官執務室。


ネッケルは。新聞を、手に取った。


一面の。大きな四文字。


しばらく。眺めたあと。


くっ、と。喉の奥で、笑った。


「ほほう。考えましたね」


窓の外では。街の歓声が。風に乗って。届いてくる。


昨日まで。王宮に石を投げていた連中の。歓声、である。


「フェイクニュースに。ホットニュース、ですか」


ネッケルは。新聞を。机に、放った。


「さて」


「いつまで。こんな急場しのぎの話題で。持ちこたえられますかね」


そして。


椅子に、深く。腰を沈めて。


薄く。笑った。


「まぁ。楽しみに。見物させてもらいますよ」


* * *


――そのころ。病院の、理事長室。


わたしは。窓の外を、眺めていた。


遠くから。街の歓声が。かすかに。聞こえてくる。


「王妃様、万歳」


「王家に世継ぎだ」


……ふぅん。


まぁ。


今回も。なんとか。乗り切った、みたい。


胃も。今日は。おとなしい。


借金は。まだある。ネッケルは。まだいる。国の財政は。相変わらず。火の車。


問題は。何一つ。片付いていない。


でも。


まぁ。


今日くらいは。


……いいか。


わたしは。窓辺を離れて。奥の扉へ、向かった。


そして。


いつものように。


肩まで。つかって。


「はぁぁぁぁぁ〜〜〜〜」


おっさんみたいな声を。出した。


うん。


やっぱり。


これが。一番。


* * *


……ちなみに。


このあと。わたしが。


おなかの中の子と一緒に。どんな地獄を見ることになるのか。


ネッケルの言う「急場しのぎ」の。次に。何が待っているのか。


そして。


わたしが。ちゃんと。ギロチンを。回避できるのか。


それは。


まだ。誰にも。わからない。


わからないけど。


とりあえず、今は。


お風呂に。つかっていたい。


……ちょっとだけ。


ちょっとだけ、だからね。


第一部・完

めでたく、第一部終了です。


ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。


第二部では、母となった妙子が、いよいよフランス革命の時代に突入し、その中で翻弄されていくお話を想定しています。


ただ、第一部を書き終えてみて、自分では面白いと思って書いてきた一方で、もっと多くの「なろう」の読者に楽しんでもらうには、まだまだ力が足りないな、と感じるところもありました。


正直、かなり悔しいです。


ということで、ここでいったん妙子たちにはお休みしてもらい、私もしばらく修行のために隠れます。


また機会があれば、第二部の続きを引っ提げて戻ってくるかもしれません。

あるいは、まったく新しいプロットを抱えて戻ってくるかもしれません。


そのときは、もう一度「なろう」の厚い壁に挑戦したいと思います。


全百十六話。

長い間お付き合いいただき、本当にありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
お疲れ様でした。続きもぜひ読みたいです。 当時のフランスの税収5億リーブル(諸説あり)に対し、累積赤字はその10倍近い47億リーブルだったようなので、ここからまともに立て直す方法は…。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。