第百七話 私、できる女
王妃様、ついに「できる女」になりました。
朝風呂に入り、書類を片づけ、貴族を引き連れて総回診。
本人は絶好調。病院経営も順調。
そして、こういうときほど。見えないところで、ろくでもないことが動き始めます。
忙しい。
死にほど、忙しい。
目が回る忙しさとは、このことだ。
だけど。
今のわたしって。
めっちゃ、できる女。
* * *
色々、あった。
本当に、色々あった。
転生してきて。おまるに絶望して。現代知識で無双しようとして。ことごとく返り討ちにあって。テレーにはめられて。病院を押しつけられて。借金まみれになって。ゲロを吐いて。悪徳教会を土下座させて。英雄になって。風呂を手に入れて。
そして。わたしは、とうとう。
この王国を、手に入れたのだ。
……いや。
手に入れた、は。ちょっと言い過ぎかもしれないけど。
でも。マリー・アントワネット記念病院は。今やこの国で、知らない者はいないくらいの存在になっている。
出張所は全国に広がり。貴族も教会も商人も。わたしの病院に、頭を下げてくる。
わたしの名前が。この国を、動かしている。
すべてを、支配したのだ。
ふふふ。
ふふふふふ。
* * *
「王妃様。時間です。皆、準備完了です」
シャルティエの声で。わたしは、現実に引き戻された。
「そう。今日は早いわね。皆も、慣れてきたのかしら。じゃぁ、早速。参りましょうか」
そう。今日は。
王妃様の、慰問。
わたしは。大勢の医者、関係者を引き連れて。貴族専用病棟にいる。貴族・豪商の部屋へと、向かうのだった。
まさに。財前教授の総回診、ってやつである。
(注・白い巨塔。昔お母さんが録画してたドラマ。教授が大名行列で病室を回るやつ。主人公になった気分)
なぜこうなったかと言えば。
ようは。治療費を貴族どもからふんだくるため。金持ってそうな貴族の病室に、顔を出しているうちに。
「こっちも来てほしい」「あっちも来てほしい」と。要望が殺到し。
寄付金まで、積み上げられたため。
定期的に各部屋へと挨拶に回るのが。ここの、しきたりになったのである。
手を振って。にっこり笑って。「お加減はいかがですか」と。当たり障りのない、世間話をして。
それだけで。金貨の袋が、どさどさ積まれる。
……もう。これ。
わたしが前世で夢見ていた。アイドル王妃ルートそのものじゃない?
* * *
しかし。わたしも今では、暇ではない。
ロリ……もとい。愛娘家の冷血眼鏡、ヴァロワに。散々しごかれたおかげで。
稟議書の書き方から。請求書の処理方法まで。最近では、かなり上達してきたと。自負している。
……なのに。
うまく速くできるようになると。なぜか。書類が、倍々に増えていく。
ちっとも、減らない。
何で?
処理速度が上がったぶん。ヴァロワが、容赦なく追加を積んでくるのだ。
あいつ。わたしを、何だと思っている。
書類処理マシーンじゃ、ないんだぞ。
(注・労働基準法。前世の世界にはあったらしい。この世界にはない。ないので、わたしは現在10連勤である。誰か助けて)
なのに。そんな大事な仕事の時間を削って。
貴族どもの、ご機嫌伺いのため。
当たり障りのない世間話をして。回っている。
あぁ、もう。休みよこせ。
* * *
とはいえ。
文句を言いながらも。わたしは、この日々を。嫌いじゃ、なかった。
充実している。
たぶん。
……いや。もしかしたら。ヴァロワの目から出てくる、怪電波によって。洗脳されているだけ、かもしれないけど。
朝は風呂に入って。「はぁ〜」と言って。
それから、書類を処理して。総回診をして。会議をして。
たまに。シャルティエと、ロジエと。くだらない作戦会議をして。
ドブレに。クソリプをもらって。
ときどき。クレールと。女子会トーク、みたいなことをして。
そして。夜遅くに、王宮に帰って。廊下で。ルイ君と。ほんの一瞬だけ。すれ違う。
目が合うと。小さく。お互い、笑う。
それだけ。
それだけなんだけど。
……まぁ。悪くない。
うん。悪くない。
今のわたしは。たぶん。この世界に来てから。一番、充実している。
* * *
だから。
このときのわたしは。
まったく。気づいていなかった。
わたしが。総回診ごっこに浮かれて。書類の山と格闘して。風呂で「はぁ〜」と言っている。
その裏で。
わたしの知らないところで。
大事件は。
静かに。確実に。
動き出していた、ということに。




