第百三話 血には、逆らえない
医者でも看護婦でもないはずのクレールが、患者を前にした途端に大変身。
倒れた人を放っておけない理由には、代々受け継がれてきた家族の生き方がありました。
血には、逆らえない。
そんなクレールと王妃様の、少し静かな夜のお話です。
それからは。すさまじいの、一言に尽きる。
「ちょっとあなた。動けるわよね。手伝いなさい」
「この人は危険ね。すぐにうちの医者に見せましょう。呼んで来て」
「あなたはこの布で、ここを強く抑えるの」
「先生は呼吸の浅い子から見てください。熱だけの子は日陰へ。輸送係、荷台を空けて寝かせる場所を作って。帳簿係、名前と村を控えて。あとで本部に上げます」
と。患者さんたちを、次々に処理し始め。
さらには。隊の食事係に。どこから拾ってきたのかわからない、怪しい雑草を大量に煮詰めさせ。薬草茶を作って、振る舞い出した。
どこから出したんだ、と思い聞いてみたら。
「道中で見つけた薬草です。傷を洗ったり、熱を下げる煎じ薬にしたりする程度ですが」
何? 何なの、あれ?
クレールって、お医者様だったの???
びっくりして話しかけたら。
「医者じゃないです。今忙しいので。詳しい話なら、後で聞きます。王妃様は邪魔なので。領主の館で、待っててください」
って、追い払われた。
わたしだって。せっかくなら、何かやりたかったのに。
一人ポツンと、部屋で待機は。さすがに、ちょっと寂しい。
* * *
夜。
ひと心地ついたのか。クレールが、戻ってきた。
もう聞きたいことが、山積みだ。早速。
「ずいぶん手慣れてたけど。クレールは、医者の卵か何か?」
「医者じゃないですし、卵でもないですが」
クレールは。少しだけ、笑った。
「うちは代々、医者の家系で。倒れてる人や、弱ってる人を、ほっとけないんです」
「医者の、家系?」
「そもそも、おじいちゃんが。元はそれなりに名の通った医者だったのですが。金のない人を見捨てることに、我慢ならなくなり。慈善病院に入っちゃったくらいですからね」
「え。ロジエって、名医だったの? てっきり、慈善病院の地縛霊だと思ってた」
と、思わず、つぶやくと。
クレールは、くすくす笑いながら。
「ひっどーい。そんなこと言ってたら、おじいちゃんに言いつけますよ。そのうち本当に、枕元に立たれて。呪われちゃうんだから」
「……そういえば。クレールのご両親って。今は何をなさってるの?」
すると。
一瞬。暗い表情を、浮かべた後。
すぐに、いつもの表情に戻り。
「わたしが小さい時に。流行り病で、亡くなりました」
「……」
「父は医者で。母は看護婦だったのですが。病の患者をほっとけないと言って。たくさんの患者を受け入れ。必死の看病の結果。自分たちにも病がうつってしまい。そのまま、ぽっくり」
「うっ。悪いこと聞いちゃったね。ごめん」
「いいんですよ。昔のことですし。当時は泣きわめいて、おじいちゃんを困らせたりもしましたけど。もう、済んだ話です」
クレールは。さらりと、そう言った。
けれど。その「いいんですよ」の声に。ほんの少しだけ、震えが混じっていたのを。わたしは、聞き逃さなかった。
でも。
それ以上、踏み込むのは。やめておいた。
「まぁ、そんなわけで。うちの家系は、とにかく。患者見ると、ほっとけないんです」
クレールは。少し、遠い目をした。
「そんなだから。おじいちゃんは、わたしが医者になるの、反対してて。事務系のお仕事に就くって聞いたときは。すごく喜んでくれたんだけど」
「うん」
「結局。医者の卵のアンリと結婚して。こうして医療関係についちゃった」
そして。ふっと、笑った。
「やっぱり。血には、逆らえないね」
* * *
そんな。パワフルなロジエ一族の話を、聞かされつつ。
夜が、更けていく。
そういえば。この世界に来て。
こうやって、女子会トークって。
はじめて、かもしれない。
……なんか。
ちょっとだけ。ほっこり、した。




