第百二話 また、ゲロイン
出張所の候補地を視察するため、王妃様は再び地獄の馬車旅へ。
各地で英雄として迎えられる一方、目的地には暴動の傷跡と、治療を求めて集まった大勢の人々が待っていました。
視察隊には、全員を診られるほどの準備はありません。
それでもクレールは、迷わず立ち上がります。
「王妃様、大丈夫ですか?」
と、クレールが心配そうに伺っている中。わたしは、といえば。
うー。気持ち悪い……。げろげろげろ……。
おかしい。わたしは正統派悪役令嬢改め悪役王妃として。この世界のヒロインのはず。
決してゲロインなんて呼ばれる、汚れ系ギャグマンガのヒロインじゃ……。
って。このくだり、以前もあったような?
デジャブ、だろうか。
わたしは今。田舎の道端で。またまた、吐いている。
というのも。ヴァロワとシャルティエとロジエは。新病棟計画で、かかりきりで手が離せない。
しかし。出張所の新設依頼は、山のように来ている。
そこで今回は。クレールと、わたしと。なぜかドブレで。出張所設置候補地に。視察、調査を行うことと、なった。
ドブレは。前は特ダネを落としたから。あんな思いしたくないと、うるさいので。ついてくるのを、許可した。
現在は。そのほかに。衛兵十数人と。出張所立ち上げチームに所属する医師や職人など、十数人を引き連れた。結構な大名行列と、なっている。
ただ。わたしがこんな状態なので。一旦休憩として。昼食の準備に入っているようだ。
「ねぇクレール。あとどれくらい? もうこの辺で、適当にお茶を濁して帰らない? 候補地は残念ながら不適正だったって言えば、みんな納得しくれ……」
「何バカなこと言ってんですか。目的地は、ここからあと2日以上あるんです。早くしないと、今日泊まる予定の街まで辿り着けないで。野宿になりますよ」
うー。さすがに。王妃が野宿は、格好が悪い……。
* * *
そして。地獄のツアーが再開され。ゲロインもやや慣れてきたころ。
宿泊予定の街へと、辿り着いた。
街では。市長が迎えに来ており。さらに街道には。住人たちが見物のため、ずらりと並んでいた。
試しに、手を振ったら。割れんばかりの歓声が、返ってきた。
やばい。わたしまるで。オリンピックの金メダリストや、横綱になったみたい。
気持ちの悪さは残っているが。正直、気持ちいい。
「ねぇクレール。なんかすごいね。わたし、まるで英雄の凱旋みたいじゃない」
「みたいじゃなくて。王妃様は今や、ある種の英雄ですよ」
「えっ。そうなの?」
するとドブレが。
「あれだけ新聞に書かれるってことは。十分、人気者です。今や王妃の名前が載るだけで、発行部数が変わりますからねぇ。まさに、歩く特ダネです」
うぐっ。言い方……。
* * *
そんな道中が続き。3日目。
馬車のひどい乗り心地にも慣れたころ。目的地の村に、たどり着いた。
村では。当然のごとく大歓迎で。ちょっとしたお祭り状態だったが。正直、通る街全てそんな感じだったので。悪い気はしないけど。飽きてきた。
なので、いつも通り。適当に手を振って。宿泊予定地兼話し合いの場でもある。領主の館へ、直接行くことになった。
ただ。その際、村を見ていると。
街道沿いは、取り繕ってはいたが。あちこち、燃やされた跡や。破壊された家々が、目についた。
まるで。少し前に、戦争でもあったような。怖さを感じる。
それらを見ていると。ドブレが。
「あぁ、アレですか? 最近、領主と住民が対立して。かなりひどい暴動に発展したそうですよ。で、まぁ。最終的に、相当住人が処刑されたらしいですね」
「……」
「ただ。領主もやばいって感じたんでしょうね。だから、出張所を作ると住民に約束することで。何とか暴動が収まったらしいです。だから、もし出張所設置を保留にしますなんてなったら。また暴動になって。大量の住人が処刑されたりするんですかね。おーこわ」
……と。怖いこと言い出した。
そんなこと言われたら。おいそれと、「下見した結果、保留にします」なんて。言えなくなってしまう。
希望してる候補地は、まだまだたくさんあるし。全部作るわけでもないのに。
と、思っていたら。領主の家に、着いた。
領主の家の壁や扉は。最近修理したり交換したのか。部分的に、ピカピカだ。
それを見て。先ほどのドブレとの会話を思い出し。思わず、身震いしてしまう。
* * *
そんな怖い地域の領主だ。どんな強面が出てくるのかと思ったら。
とても温和な感じの領主が出てきて。出迎えてくれた。
まぁ。見た目は温和でも。こんな暴動起きちゃうような土地の領主なのだから。中身なんて、わかったものではない。
そして。毎度もう慣れてきたが。さまざまな確認事項。
と言っても。普段はシャルティエ。今回はクレールがやっているので。わたしは、ニコニコしながら頷いているだけの。簡単なお仕事だ。
またしても。王宮で培われた、スマイルスキルが役に立つ。
そんな中。ふと、窓の外を見ると。
領主の屋敷の横の空き地に。なぜか。大量の怪我人や。体調の悪そうな人々が。簡素なテントの下で、うずくまっていた。
「ちょっと、いいかな。あの空き地にいる人たちは、難民? 怪我人も多いようだけど」
「あぁ、アレですか? 困ったものです。王妃様の視察隊がくると聞いて。慈善病院が来ると、勘違いしたものたちです。何度も違うと説明したのですが。いくら言っても聞かないので。仕方なく、あのままに……」
「へ、へぇ。そうなのね……」
うちの隊には。確かに医者や看護師も複数名いる。
けれど。あくまで病院を設営するための調査目的で来ており。本格的医療を行うほどの準備も人材も、揃えていない。
少しくらい薬を分けたり、診察するくらいならできなくもないが。あの人数は、さすがに、ちょっと……。
と思っていると。
クレールが。すっと、立ち上がった。
「じゃぁ、次は早速。実地調査しますね」
と言って。驚いたことに。
その難民キャンプに、向かっていった。




