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地味スキル【アイテムボックス】で異世界商会成り上がり!現代知識と絶品料理で没落令嬢と世界を革命します  作者: 黒崎隼人


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第2話「没落令嬢は腹ペコでした」

「食で成り上がる」と決意したはいいものの、先立つものがなければ始まらない。神殿でもらったわずかな金貨では、あっという間に底をついてしまうだろう。


『まずは情報収集と、元手稼ぎだな』


 俺は冒険者ギルドと思しき、活気のある建物に足を運んだ。中に入ると、むっとするような汗と酒の匂い、そして屈強な男たちの熱気が俺を迎える。場違い感は半端ないが、ここで引き返すわけにはいかない。

 カウンターの女性に話を聞くと、やはりここは冒険者ギルドで、簡単な依頼なら新米でも受けられるとのこと。薬草採取やゴブリン討伐など、いくつか依頼が張り出されている。


『ゴブリン討伐はHP10の俺には無理ゲーすぎるな……。となると、薬草採取か』


 鑑定スキルがあれば、毒草と薬草を見間違える心配もない。これなら俺にもできそうだ。早速、一番簡単そうな「ポポ草の採取」という依頼を受けることにした。


***


 街の門で衛兵に通行証を見せ、俺は初めて城壁の外に出た。広大な平原と、遠くに見える森。まさにファンタジーの世界だ。


「さてと、ポポ草、ポポ草……」


 鑑定スキルを使いながら、足元の草を片っ端から調べていく。

 【雑草: 特に使い道はない】

 【毒ニンジン草: 食べると激しい腹痛を起こす】

 【ポポ草: 止血効果のある一般的な薬草。傷薬の材料になる】


「お、あったあった。これか」


 見た目はただの雑草と変わらないが、鑑定スキルのおかげで簡単に見つけられた。地味スキル、最高だぜ。夢中でポポ草を摘み、アイテムボックスに放り込んでいく。無限に入るって、本当に便利だな。これなら、持ち運びの心配はいらない。

 依頼のノルマをあっという間に達成し、念のため多めに採取してギルドに戻る。換金すると、予想以上の収入になった。これで数日は宿と食事に困らないだろう。


***


 ほくほく顔でギルドを出て、安い宿を探して路地裏を歩いていた、その時だった。


「いい加減にしろ! いつまで借金を滞納するつもりだ!」

「ひっ……! も、申し訳ありません! 必ず、必ずお支払いしますので……!」


 怒声と、か細い悲鳴が聞こえてきた。声のする方へこっそり近づくと、ガラの悪い男たち数人が、一人の少女を取り囲んでいるのが見えた。

 少女は、年の頃は十七、八歳くらいだろうか。使い古された簡素な服を着ているが、それでも隠しきれない気品が漂っている。夕陽のような赤みがかった金髪に、気の強そうだが今は怯えに潤んでいる翠色の瞳。整った顔立ちは、泥の中に咲いた花のようだ。


『うわぁ、絵に描いたようなテンプレイベント……』


 見て見ぬふりをするのが賢明だろう。俺は戦闘能力ゼロの一般人だ。関わってもろくなことにならない。そう頭では分かっているのに、なぜか足がその場に縫い付けられたように動かなかった。少女の震える肩が、助けを求めているように見えてしまったからだ。


「口ばっかりじゃねえか! 金がねえなら、体で払ってもらうしかねえなあ?」


 男の一人が下品な笑いを浮かべ、少女の腕を掴んだ。


「いやっ……! 離してください!」


 少女が悲鳴を上げた瞬間、俺は考えるより先に飛び出していた。


「そこのお嬢さんから手を離しな!」


 我ながら、ベタなセリフだと思う。だが、もう後には引けない。

 男たちが一斉にこちらを振り返る。その筋骨隆々とした体と、凶悪な人相を見て、俺は早くも後悔し始めていた。


「ああん? なんだてめえ。この女の仲間か?」


 リーダー格と思しき、ひときわ体の大きい男が、こめかみに青筋を立ててすごんでくる。


『やばい、完全に詰んだ。どうする、俺!?』


 頭をフル回転させる。武器はない。力でも勝てない。逃げる? いや、少女を見捨てて逃げるなんて真似はしたくない。何か、何か手はないのか……!

 その時、ふとアイテムボックスの中身を思い出した。そうだ、アレが使えるかもしれない。


「まあまあ、そういきり立つなよ、お兄さんたち。ちょっとした手品を見せてやるからさ」


 俺はわざとらしく両手を広げ、ニヤリと笑ってみせた。男たちは怪訝な顔をしている。


「手品だと?」

「そう。例えば……これだ!」


 俺はアイテムボックスから、森でついでに採取しておいた「ビリビリダケ」を取り出し、男たちの足元に思い切り叩きつけた。

 パンッ! と乾いた音を立ててキノコが弾け、中から黄色い胞子が派手に舞い上がる。


「うわっ!? なんだこりゃ!」

「目が、目がチカチカする!」


 ビリビリダケは、触れると軽い麻痺と目くらましの効果がある、ちょっと厄介なキノコだ。もちろん、鑑定スキルでその効果は確認済み。大した威力はないが、不意を突くには十分だった。

 男たちが胞子に怯んでいる隙に、俺は少女の腕を掴んだ。


「今のうちに逃げるぞ!」

「え、あ、はい!」


 少女の手を引き、俺たちは全力でその場を走り去った。後ろから「待ちやがれ、こん畜生!」という怒声が聞こえてきたが、知ったことか。

 路地裏を抜け、大通りまで出て、ようやく俺たちは足を止めた。二人して、ぜえぜえと肩で息をする。


「はぁ……はぁ……。だ、大丈夫だったか?」

「は、はい……。あの、助けていただいて、ありがとうございました……!」


 少女は息を切らしながらも、深々と頭を下げた。改めて彼女の顔を見る。近くで見ると、その美しさはさらに際立っていた。透き通るような白い肌に、長いまつげ。こんな綺麗な子が、あんな連中に絡まれていたなんて。


「俺はカイリ。湊カイリだ。君は?」

「わたくしは、リリアナ・フォン・アルクライドと申します」


 リリアナと名乗った少女は、貴族のような丁寧な口調で答えた。フォン、というからには、やはり貴族の家系なのだろう。


「アルクライド……。もしかして、この都市の元領主の?」

「……ご存知、でしたか」


 リリアナは、寂しそうに微笑んだ。アルクライド家は、かつてこの商業都市エトリアを治めていた由緒ある子爵家だったが、数年前に事業の失敗で多額の借金を抱え、没落してしまったのだという。先ほどの男たちは、借金先のゴルドマン商会から派遣された取り立て屋だったらしい。


「そうだったのか……。大変だったな」

「いえ……。カイリ様こそ、わたくしのような者のために危険な目に遭わせてしまい、申し訳ありませんでした」

「カイリでいいよ。様なんてつけなくていい」


 話を聞けば聞くほど、彼女の境遇に同情してしまった。貴族としての誇りを持ちながらも、たった一人で借金返済のために日雇いの仕事をして糊口をしのいでいるという。

 その時、リリアナのお腹が、くぅぅ、と可愛らしく鳴った。


「!」


 リリアナは顔を真っ赤にして、お腹を押さえる。その仕草がなんだか小動物みたいで、俺は思わず笑ってしまった。


「ははっ。腹、減ってるんだろ? 何か食べに行こう。俺がおごるよ」

「え、でも、そんな……。カイリ様にご迷惑はかけられません!」

「迷惑じゃないって。俺も腹ペコなんだ。それに、さっきの連中への仕返しも兼ねて、ちょっと景気づけにパーッといきたい気分なんだよ」


***


 そう言って、俺はリリアナを近くの食堂へと誘った。

 食堂で注文したのは、この店で一番高い肉料理。しかし、出てきたのはやはり、硬くて味の薄いステーキもどきだった。

 リリアナは「美味しいです」と健気に微笑んでいるが、その顔は少しも楽しそうじゃない。きっと、普段はもっと粗末なものしか口にできていないのだろう。


『やっぱり、この世界の食文化はダメダメだ……。だけど、だからこそ、チャンスがある』


 俺は決心した。


「リリアナ」

「はい、なんでしょうか」

「俺と一緒に、商売をしないか?」

「……え?」


 突然の提案に、リリアナは翠色の瞳をきょとんとさせた。


「商売、ですか……? わたくしと、カイリ様が?」

「ああ。俺には、この街の連中の度肝を抜くような、とびきりうまい料理を作るアイデアがある。だけど、俺はこの世界のことを何も知らないし、店を出すための人脈も金も足りない。だから、君の力を貸してほしいんだ」


 これは、ただの同情じゃない。彼女には、没落したとはいえ貴族としての知識や作法があるはずだ。それは、この世界で商売をしていく上で、きっと大きな武器になる。そして何より、彼女の真面目で誠実な人柄は、信頼できるパートナーとして申し分ない。

 リリアナはしばらく黙って考えていたが、やがて顔を上げ、決意を秘めた瞳で俺をまっすぐに見つめた。


「わかりました。わたくしでよければ……ぜひ、協力させてください! カイリ様の作る料理、食べてみたいです!」


 その笑顔は、さっきまでの怯えた表情とは比べ物にならないくらい、明るく輝いていた。

 こうして、俺とリリアナの奇妙なコンビが誕生した。目指すは、食文化革命と、借金完済。そして、いつかはこの街一番の商会を立ち上げてやることだ。

 俺たちの挑戦が、今、始まろうとしていた。

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