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地味スキル【アイテムボックス】で異世界商会成り上がり!現代知識と絶品料理で没落令嬢と世界を革命します  作者: 黒崎隼人


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第3話「醤油もどきと神の串焼き」

 リリアナという強力なパートナーを得た俺は、早速、計画の第一歩に取りかかることにした。


「まずは、拠点だな。リリアナの家って、今どうなってるんだ?」

「わたくしの家は……その、街の外れにある古い屋敷です。ほとんどの家財は売り払ってしまいましたが、住むだけなら……」


 リリアナは少し申し訳なさそうに言う。没落貴族の家、か。ちょっと見てみたい気もする。

 案内されたアルクライド邸は、確かに古く、手入れも行き届いていないようだったが、それでも元は立派な屋敷だったことがうかがえる造りをしていた。広い厨房もある。ここなら、色々と試作品を作るのにもってこいだ。


「よし、ここに住まわせてもらおう。家賃は出世払いで頼む!」

「ええっ!? そんな、カイリ様から家賃なんていただけません!」

「いいからいいから。その代わり、これから作る料理の試食係、第一号になってもらうからな」

「はいっ! 喜んで!」


 食べ物の話題になると、リリアナの目がキラキラと輝く。本当に食いしん坊なんだな、この子は。

 さて、拠点も決まった。次はいよいよ、革命の第一歩となる「魔法の調味料」の開発だ。


『まずは、やっぱり醤油だよな』


 日本の食卓に欠かせない、あの万能調味料。あれさえあれば、ただ焼くだけの肉が、ごちそうに早変わりするはずだ。

 問題は、どうやって作るか。現代日本の醤油は、大豆と小麦と塩と麹菌を発酵させて作る。しかし、この世界に大豆や麹菌があるかどうかはわからない。


『いや、完全に同じものじゃなくていい。醤油「っぽい」味のソースができれば、それで十分だ』


 俺は鑑定スキルをフル活用し、醤油の代わりになりそうな食材を探し始めた。

 厨房の食料庫を漁ると、豆のような穀物が見つかった。

 【ロックビーン: 硬い豆。長時間煮込むと柔らかくなる。香ばしい風味がある】


『これだ! 大豆の代わりに使えるかもしれない』


 次に小麦。これは普通にパンの材料として手に入った。塩もある。問題は、発酵を促す麹菌だ。


『うーん、麹菌の代わり……。発酵、発酵……』


 悩んでいると、リリアナが戸棚の奥から、黒くてドロリとした液体が入った瓶を持ってきた。


「カイリ様、これはお使いになりますか? 『黒蜜』といって、果物を発酵させて作る甘味料なのですが……」


 俺は瓶を受け取り、さっそく鑑定する。

 【黒蜜: いくつかの果実を発酵させて作った甘味料。独特のコクと風味がある。発酵を促進する微生物を多く含む】


『キタコレ!』


 まさに、渡りに船だ。この黒蜜に含まれる微生物が、麹菌の代わりを果たしてくれるかもしれない。

 材料は揃った。あとは、現代知識の出番だ。


「リリアナ、ちょっと手伝ってくれ! まず、このロックビーンを炒って、粉々にするんだ!」

「は、はい!」


 俺たちは二人で、試行錯誤を繰り返した。炒ったロックビーンの粉と、炒って砕いた小麦を混ぜ、塩水を加える。そこに、黒蜜を少しずつ足していく。分量は、サラリーマン時代の料理経験で培った、俺の「感覚」が頼りだ。


『旨味と塩味、そして香りのバランスが大事なんだ。焦がしすぎず、でも香ばしさは最大限に引き出す……!』


 何度も配合を変え、味見を繰り返す。最初はただしょっぱいだけの液体だったが、試作を重ねるうちに、だんだんと記憶の中にある「醤油」に近い風味になってきた。

 そして、数十回の試行錯誤の末。


「できた……! できたぞ、リリアナ!」


 ついに、俺たちの目の前に、黒く輝く液体が完成した。見た目は完全に醤油だ。小皿に注ぎ、指先につけてぺろりとなめてみる。


『……うまい!』


 本物の醤油には及ばないが、塩味の中にしっかりとしたコクと旨味、そして香ばしい風味が感じられる。これなら、いける。俺はこれを「カイリソース」と名付けた。


「リリアナ、味見してみてくれ」

「はい!」


 リリアナは、おそるおそる指先にソースをつけ、口に含んだ。その瞬間、彼女の翠色の瞳が、驚きに見開かれる。


「……! こ、これは……! しょっぱいのに、甘くて、香ばしくて……! こんな味、初めてです! 美味しい……!」


 その感動っぷりを見て、俺は勝利を確信した。

 ソースができたとなれば、次はこのソースを活かす料理だ。手軽に始められて、インパクトのあるもの。


「よし、屋台で串焼き屋をやろう!」


 街で一番まずかった、あの串焼き。あれを、俺たちの手で究極の一品に変えてやるのだ。

 早速、街で一番安い鶏肉(のような鳥の肉)を仕入れ、一口大にカットする。それを串に刺し、炭火でじっくりと焼いていく。肉から脂が滴り、ジュウジュウと音を立てる。

 そして、仕上げにハケでカイリソースをたっぷりと塗りつける。

 途端に、醤油が焦げる、あのたまらなく食欲をそそる香りが、あたりに立ち込めた。


「うわっ……!」

「な、なんだこの匂いは!?」


 厨房で作業していただけなのに、外を通りかかった通行人が、何事かと足を止めるほどだ。

 リリアナは、もう我慢できないといった様子で、焼きあがった串をうっとりと見つめている。


「リリアナ、お待たせ。試作品第一号だ」

「は、はいっ!」


 ふーふー、と息を吹きかけて冷ましながら、リリアナが熱々の串焼きにかぶりつく。

 もぐ、もぐ……。

 その動きが、ぴたりと止まった。そして、次の瞬間。


「おいひいぃぃぃぃぃぃぃ!」


 リリアナが、瞳をうるませながら幸福の絶叫を上げた。


「お肉が柔らかくて、この黒いソースが染み込んで……! 口の中に、幸せが広がります……! カイリ様は、神様ですか!?」

「ははは、大げさだな。でも、よかった」


 その反応だけで、成功は間違いないとわかった。俺はこれを「神の串焼き」と名付けることにした。いや、さすがにそれは恥ずかしいから「テリヤキ串」にしよう。


***


 翌日、俺たちはなけなしの金で小さな屋台を借り、街の広場で店を開いた。


「さあ、いらっしゃい! 新発明のソースを使った、絶品テリヤキ串だよ! 一本どうだい!」


 俺が声を張り上げると、物珍しそうに人々が集まってくる。そして、昨日と同じように、ソースが焦げる香ばしい匂いが漂い始めると、群衆の目の色が変わった。


「な、なんだこの匂いは……腹が、減ってきた……」

「兄ちゃん、それ一本くれ!」


 最初の一本が売れると、そこからはもう連鎖反応だった。


「うまっ! なんだこれ!?」

「もう一本くれ! いや、三本!」

「俺にも! 俺にも売ってくれ!」


 屋台の前には、あっという間に長蛇の列ができた。俺はひたすら肉を焼き、リリアナは笑顔で接客と会計をこなす。二人とも、休む暇もないほどの忙しさだ。

 用意していた肉は、昼過ぎにはすべて売り切れてしまった。


「完売……。全部、売れちゃいましたね……」


 リリアナが、空になった木箱を見て呆然とつぶやく。

 俺は、今日の売上が入った革袋を手に、にやりと笑った。ずしりと重い。神殿でもらった金貨とは、比べ物にならない重さだ。


「ああ。大成功だな、リリアナ」

「はいっ!」


 リリアナと二人、顔を見合わせて笑い合う。

 これが、俺たちの記念すべき第一歩。異世界成り上がりストーリーの、ほんの序章に過ぎない。

 だが、この小さな成功が、やがてこの街の、いや、この世界の常識をひっくり返す大きな波になっていくことを、この時の俺たちはまだ知らなかった。

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