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地味スキル【アイテムボックス】で異世界商会成り上がり!現代知識と絶品料理で没落令嬢と世界を革命します  作者: 黒崎隼人


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第10話「信頼の値段とマーケティング術」

 黒い噂と放火事件。ゴルドマン商会の陰湿な攻撃に対し、俺たちは「信頼」を武器に反撃することを決めた。

 作戦名は、「サンライズ・フェスタ」。

 その名の通り、お祭りのように楽しく、大々的に俺たちの正当性をアピールする一大イベントだ。

 計画は、三本の柱で構成される。

 第一の柱は、リリアナが発案した「オープンファクトリー」。

 第二の柱は、俺が考えた「体験型プロモーション」。

 そして、第三の柱が、俺の切り札とも言える「カスタマー・リレーションシップ・マーケティング」だ。まあ、要するに、お客様を大事にしようってことだ。


「よし、みんな聞いてくれ!」


 俺は、不安そうな顔つきの従業員たちを集め、この計画を熱く語った。


「俺たちは、卑劣なデマなんかに負けない。俺たちの作る商品と、俺たちの仕事を、胸を張って街のみんなに見てもらおうぜ! これは、反撃の狼煙だ!」


 俺の言葉に、沈んでいた従業員たちの目に、少しずつ力が戻ってきた。特に、火傷を負ったトムは、誰よりも先に拳を突き上げた。


「やりましょう、カイリさん! あんな奴らに、俺たちの誇りを汚されてたまるか!」

「そうだそうだ!」


 従業員たちの士気は、再び一つになった。

 サンライズ・フェスタの開催を告げるチラシが、街中に配られた。最初は「何かの罠じゃないか」と訝しんでいた人々も、「工房を無料公開」「新商品のサンプルプレゼント」といった魅力的な言葉に、次第に興味を示し始めた。


***


 そして、イベント当日。

 サンライズ商会の本店前には、俺たちの予想を超えるほどの、多くの人々が集まっていた。


「さあ、皆様! 本日はようこそサンライズ・フェスタへ!」


 俺は、店の前に設置した即席のステージに立ち、満面の笑みで挨拶をした。

 まずは、オープンファクトリーの開始だ。


「こちらが、私たちの石鹸が作られている工房です! どうぞ、隅々までご覧ください!」


 リリアナの案内で、人々は工房の中へと入っていく。

 そこには、ガンツが作ったピカピカの機械が整然と並び、白衣をまとった従業員たちが、衛生的な環境で手際よく作業を進める光景が広がっていた。床にはチリ一つ落ちていない。整理整頓と衛生管理は、俺がサラリーマン時代に叩き込まれた基本中の基本だ。


「すごい……。噂とは、全然違うじゃないか」

「なんて清潔な場所なんだ。こんなところで、悪いものが作られるはずがない」


 見学者たちの口から、感嘆の声が漏れる。噂が、いかに根も葉もないデマであったか、一目瞭然だった。

 次に、広場で行われた無料体験会。

 大きなタライに用意された水と、山積みにされた色とりどりの石鹸。


「さあさあ、試してみて! この豊かな泡立ちと、優しい香りを!」


 俺の掛け声に、最初は遠巻きに見ていた人々も、一人、また一人と石鹸を手に取り始めた。


「わあ、すごい泡!」

「手が、すべすべになったわ!」


 特に子供たちには、泡で形を作る「泡アート」が大人気で、広場は楽しそうな笑い声に包まれた。汚い薬品を使っているという噂は、この光景の前では滑稽でしかなかった。

 そして、最後の仕上げ。第三の柱だ。

 俺は、体験会に参加してくれた人々に、小さなカードを配った。


「これは、私たちの感謝のしるし、『サンライズ・メンバーズカード』です! これを持ってお店に来てくれれば、いつでも商品が少しだけお安くなります! それから、皆さんの声を聞かせてください! 『こんな商品が欲しい』『ここの香りを変えてほしい』どんなことでも構いません!」


 顧客の意見を製品開発に活かす。そして、リピーターになってもらうための会員制度。現代では当たり前のマーケティング手法だが、この世界では画期的だった。


「俺たちの声を聞いてくれるのか?」

「すごい商会だな、ここは……」


 人々は、ただ商品を買う「客」ではなく、商会と一緒に商品を育てていく「パートナー」として扱われたことに、新鮮な驚きと喜びを感じてくれたようだった。

 イベントの終わりには、俺とリリアナ、そして全従業員がステージに並び、深々と頭を下げた。


「私たちは、これからも皆様の生活を豊かにするために、誠心誠意、最高の品を作り続けることを誓います! どうか、これからもサンライズ商会を、よろしくお願いします!」


 その言葉に、広場を埋め尽くした人々から、温かい、そして力強い拍手が沸き起こった。

 噂は、完全に払拭された。それどころか、この一件で、サンライズ商会の評判は以前よりもさらに高まった。誠実で、客を大切にする商会。それが、新しい俺たちのブランドイメージになったのだ。


***


 数日後。ゴルドマン商会の事務所では、バルトロが苦虫を噛み潰したような顔で、サンライズ・フェスタの報告を聞いていた。


「馬鹿な……。あんな子供騙しのような催しで、状況をひっくり返しおったというのか……!」


 彼の目論見は、完全に外れた。それどころか、今回の騒動の黒幕がゴルドマン商会であるという噂が、逆に街に広まり始めていた。自業自得というやつだ。


「会長、大変です! 取引先から、契約の見直しを求める声が……!」


 部下の悲痛な報告に、バルトロは怒りのあまり、机の上のインク瓶を壁に叩きつけた。


「おのれ、カイリ……! このまま、黙ってやられると思うなよ……!」


 だが、その声には、以前のような力はなかった。

 信頼を失うのは一瞬だが、取り戻すのは容易ではない。彼は、商売において最も大切なものの値段を、見誤っていたのだ。

 サンライズ商会の快進撃は、もう誰にも止められない。俺は、確かな手応えを感じていた。

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