表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地味スキル【アイテムボックス】で異世界商会成り上がり!現代知識と絶品料理で没落令嬢と世界を革命します  作者: 黒崎隼人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/15

第11話「悪徳貴族の横槍」

 サンライズ・フェスタの大成功で、ゴルドマン商会の企みは完全に打ち破られた。

 黒い噂は消え去り、サンライズ商会の信頼は、以前にも増して強固なものとなった。店の前には、再び行列ができるようになり、従業員たちの顔にも活気が戻っている。

 一方、ゴルドマン商会は悲惨な状況だった。今回の騒動の黒幕であることが公然の秘密となり、多くの取引先から契約を打ち切られ、売上は激減。街での評判も地に落ちた。まさに、自業自得の末路だ。


「これで、もう邪魔は入らないといいのですが……」


 リリアナは、まだ少し不安そうだ。


「ああ。さすがのバルトロも、もう打つ手はないだろう」


 俺はそう楽観視していた。だが、その考えが甘かったことを、すぐに思い知らされることになる。

 追いつめられた鼠は、猫を噛む。バルトロは、最後の、そして最悪の手段に打って出たのだ。


***


 ある日、サンライズ商会に、見慣れない紋章を掲げた豪奢な馬車が乗り付けた。馬車から降りてきたのは、派手な装飾の服を身につけた、見るからに傲慢そうな小太りの男だった。


「私が、財務監査官のブラウン子爵である! この商会に、脱税の疑いありとの密告があった! よって、これより強制捜査を行う!」


 男――ブラウン子爵は、高圧的な態度でそう宣言すると、引き連れてきた役人たちに店内を物色させ始めた。


『脱税!? そんな馬鹿な!』


 うちの経理は、リリアナが完璧に管理している。一分の隙もないはずだ。これは、言いがかり以外の何物でもない。


「お待ちください、子爵様! 私たちは、法に則って正しく納税しております!」


 リリアナが、毅然とした態度で抗議する。だが、ブラウン子爵は、彼女を鼻で笑った。


「ふん、没落貴族の小娘が、私に口答えするか。証拠なら、すぐに出てくるわ」


 その言葉通り、捜査をしていた役人の一人が、大声で叫んだ。


「見つけました! これは……裏帳簿です!」


 役人が高々と掲げたのは、俺たちが見たこともない、偽の帳簿だった。どうやら、事前に誰かが店に忍び込み、巧妙に隠していたらしい。


「これで言い逃れはできまい! サンライズ商会、代表カイリ! 貴様を脱税の容疑で拘束する!」


 あまりにも見え透いた、卑劣な罠。ブラウン子爵の背後で、バルトロ・ゴルドマンがほくそ笑んでいる姿が目に浮かぶようだ。奴は、金で役人を抱き込み、公権力を使って俺たちを潰しに来たのだ。


「待ってください! カイリ様は、何も……!」


 リリアナが必死に庇おうとするが、役人たちに取り押さえられてしまう。俺も、抵抗むなしく、腕を後ろに回された。


『くそっ……! こんな手があったとは!』


 商売敵としてではなく、犯罪者として社会的に抹殺する。これ以上なく、悪辣な手口だ。証拠を捏造されてしまっては、領主のシルヴィア様でも、簡単には手出しできないだろう。


***


 俺は、なすすべなく役人たちに連行されていった。連れていかれたのは、街の薄暗い牢獄だった。

 鉄格子の向こうで、ブラウン子爵が下卑た笑みを浮かべている。


「どうだ、異世界人。私の力には逆らえんことがわかったか。大人しく罪を認め、この商会をゴルドマン殿に譲渡するならば、少しは刑を軽くしてやってもよいぞ?」


 やはり、すべてはバルトロが仕組んだことだった。


「断る。俺は、あんたたちのようなクズには絶対に屈しない」


 俺が睨みつけると、子爵は顔を真っ赤にして怒鳴った。


「まだ強がるか! ならば、たっぷりと後悔させてやるわ!」


 そう言い残し、子爵は去っていった。

 一人、冷たい石の床の上で、俺は思考を巡らせる。絶体絶命のピンチだ。だが、まだ諦めるわけにはいかない。


『何か、何か逆転の一手は……』


 ブラウン子爵。悪徳貴族。金に汚い。そのあたりに、突破口があるはずだ。


***


 数日後、リリアナが面会にやってきた。やつれた様子だったが、その瞳には、まだ闘志の火が宿っている。


「カイリ様、ご無事ですか!」

「ああ、なんとかな。それより、店のほうは大丈夫か?」

「はい。ガンツさんやトムたちが、しっかりと守ってくれています。それから……これを」


 リリアナは、鉄格子の隙間から、一枚の紙を差し出した。それは、彼女が独自に調査した、ブラウン子爵に関する情報だった。

 そこには、彼が管理する公共事業で、不自然な金の流れがあること、そしてその工事を請け負っているのが、ゴルドマン商会と繋がりのある建設業者であることが記されていた。


『ビンゴだ……!』


 ブラウン子爵とバルトロは、グルになって公共事業の金を横領していたのだ。今回の件も、その悪事を隠すため、そして邪魔な俺を消すための一石二鳥を狙ったものに違いない。

 だが、これだけでは証拠として弱い。もっと決定的な証拠がなければ、奴らを告発することはできない。


「リリアナ、一つ頼みがある。ガンツに、あるものを作ってほしいんだ」


 俺は、リリアナに小声で耳打ちした。俺の頼みを聞いた彼女は、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに力強く頷いた。


「わかりました。必ず、やり遂げてみせます」


 リリアナが去った後、俺は行動を開始した。


「看守! ブラウン子爵に伝言を頼む! 取引に応じると!」


 俺の突然の心変わりに、看守は驚きながらも、子爵に伝えに行った。

 しばらくして、ブラウン子爵が、上機嫌な様子で牢の前に現れた。


「ふん、ようやく自分の立場がわかったようだな。それで、条件は?」

「商会を譲渡する前に、少し話がしたい。場所は、あなたの屋敷で。二人きりでだ」


 俺の要求に、子爵は一瞬眉をひそめたが、勝利を確信している彼は、気前よくその申し出を受けた。


***


 数時間後、俺は子爵の屋敷の、豪華な応接室にいた。


「さて、話とはなんだ? 手短に済ませろ」


 子爵は、ふんぞり返って椅子に座っている。

 俺は、ゆっくりと口を開いた。


「子爵、あなた、ゴルドマンと組んで公共事業費を横領していますね」


 その言葉に、子爵の顔色が変わった。


「な、何を馬鹿なことを……!」

「とぼけないでください。すべて、調べはついています。あなたがこのまま俺を罪に陥れるなら、こちらもあなたの悪事を、シルヴィア様に洗いざらいぶちまけるまでだ」


 俺は、ハッタリをかました。だが、罪の意識がある子爵には、効果てきめんだったようだ。顔からは、みるみるうちに血の気が引いていく。


「……面白い。その証拠は、どこにある?」

「証拠は、安全な場所に隠してある。俺に何かあれば、自動的にシルヴィア様の元に届く手筈になっている」


 もちろん、真っ赤な嘘だ。だが、今の俺には、これしか武器がない。

 子爵は、しばらく黙って俺を睨みつけていたが、やがて、にやりと口元を歪めた。


「よかろう。ならば、取引だ。お前を無罪放免にしてやる。その代わり、横領の件は忘れろ。そして、このエトリアから出ていけ。そうすれば、命だけは助けてやろう」


『食いついた……!』


 だが、俺の狙いは、こんなところじゃない。


「いや、取引の条件はこうだ。俺を釈放し、サンライズ商会への干渉をやめる。そして、あんたがこれまで横領した金を、全額、国庫に返還するんだ」

「なっ……!? 貴様、ふざけるのも大概にしろ!」


 子爵が激昂した、その時だった。

 応接室の扉が、勢いよく開かれた。そこに立っていたのは、銀色の髪をなびかせた、この街の領主、シルヴィア様その人だった。そして、その背後には、武装した兵士たちがずらりと並んでいる。


「……今、すべて聞かせてもらったぞ、ブラウン」


 シルヴィア様の、氷のように冷たい声が響く。

 ブラウン子爵は、信じられないといった顔で、シルヴィア様と俺を交互に見た。


「な、なぜ……なぜあなたがここに……!?」


 俺は、懐から小さなブローチを取り出して見せた。それは、一見するとただの装飾品だが、ガンツがリリアナに頼まれて作った、特殊な魔道具だった。


「これは、『集音ブローチ』。ここでの会話はすべて、このブローチを通して、別室にいるシルヴィア様たちに筒抜けだったんですよ」


 そう、これが俺の、一世一代の大勝負だった。リリアナがシルヴィア様に事情を話し、協力を取り付け、この「おとり捜査」が実現したのだ。

 ブラウン子爵は、その場にへなへなと崩れ落ちた。


「そ、そんな……」


 勝負は、決した。

 悪徳貴族と悪徳商人の癒着は、こうして白日の下に晒された。俺の、痛快な大逆転劇だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ