表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巡礼者の道  作者: 잿빛서기관


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/55

返信

宿に戻った後。


ベルは自分の部屋へは行かず、


わざわざ大部屋へやって来た。


エリオンが不思議そうに見ると、


ベルは視線を伏せて呟いた。


「いつまた一緒にいられるか、


分からないじゃないですか」


そう言って、


エリオンの寝台にどさりと座ってしまった。


エリオンは何となく、


首の後ろを触った。


何と言えばいいのか分からなかった。


最近のベルは、


時々こういう姿を見せた。


一人でいたくないように。


誰かがそばにいるか、


何度も確かめようとするように。


エリオンはちらりと司祭を見た。


司祭はしばらくベルを見つめてから、


小さく息を吐いた。


そして言った。


「エリオンと話がある。


少し席を外してくれないか」


ベルがびくりとした。


少しためらってから、


しょんぼりした顔でゆっくりと立ち上がった。


扉の前まで歩いたベルが、


足を止めた。


「……終わったら呼んでください」


そして静かに扉が閉まった。


しばらく沈黙が流れた。


エリオンは扉の方を見つめてから、


ゆっくりと視線を戻した。


司祭はすでに、


自分の寝台に座っていた。


「座りなさい。


アカデミーについて話がある」


エリオンも自分の寝台に腰を下ろした。


司祭はすぐには口を開かなかった。


しばらく沈黙が続いた。


いつもの様子ではなかった。


エリオンは慎重に口を開いた。


「何かあったんですか?」


司祭は少し迷ってから、


ようやく口を開いた。


「返事が来たら……


中央教会へ行くことになる」


エリオンは頷いた。


「はい。


やっぱり伝手があるんだろうとは思っていました」


司祭は首を横に振った。


そしてため息をついた。


「……その程度ではない」


エリオンは目を瞬かせた。


「その程度じゃないなら……?」


司祭はしばらく口を閉ざしていた。


何をどう言えばいいのか、


迷っているようだった。


やがて、


ゆっくりと口を開いた。


「私たちは……


司教様にお会いすることになる」


エリオンは、


しばらく言葉を失った。


「……はい?」


司祭は苦笑した。


「いや……


ちょっと待ってください」


エリオンは手を上げて、


司祭の言葉を遮った。


頭が追いつかなかった。


司教。


一生に一度、


会えるかどうかという権力者。


そんな人に会いに行くというのか。


「司教様に……?」


エリオンが信じられない顔で聞き返すと、


司祭は小さく頷いた。


「そうだ」


「そんな人にどうして……


いや、どうやって……」


エリオンは呆然と司祭を見つめた。


聞きたいことはどんどん増えていくのに、


喉で詰まったように、


言葉にならなかった。


司祭が小さく笑って言った。


「あまり緊張しないことだ。


そもそも返事が来ない可能性もある」


「……問題はそこじゃない気がします……」


司祭が言った。


「深く考えなくていい。


大半の話は私がすることになるだろうから」


司祭は少し間を置いてから、


言葉を続けた。


「だから……


大丈夫だ」


そして少しの間。


司祭の表情が、


どこか複雑なものになった。


「そうだ……


大丈夫だろう」


小さな声だった。


まるで、


自分自身に言い聞かせているようだった。


エリオンはその反応を見て、


それ以上は聞けなかった。


そうして、


静かな沈黙が下りた。


その時だった。


廊下から怒ったような足音が聞こえ、


誰かが扉を勢いよく開け放った。


「詐欺だ!


詐欺!」


エリオンと司祭は驚いてそちらを見た。


トリーだった。


トリーは息を荒くしながら、


顔を真っ赤にしていた。


「傭兵にしてくれるって言ったのに!


雑用ばっかりさせて!」


エリオンは呆気に取られて見つめていたが、


やがて大きく笑い出した。


司祭は額を押さえ、


首を横に振った。


隣の部屋からは、


ベルが静かに出てきた。


トリーを見るなり目を丸くし、


表情を明るくして口を開いた。


「トリー!


もう帰ってきたの!?


どうすることになったの?


うまくいった?」


トリーはベルの方を振り返り、


泣きそうな顔で言った。


「ベルー、


もう死ぬほどしんどい!


腕も脚も折れそうだよー!」


ベルはトリーの泣き言を見てから、


からかうように笑った。


「よかったじゃない。


あれだけやりたがってたことでしょ」


トリーは全身から力が抜けたように、


がっくりとうなだれた。


「僕がやりたかったのは、


依頼とか冒険とか、


そういう浪漫のあるやつだったのにー」


トリーは腕をだらりと垂らして言った。


「この腕を見てよー。


もう自分の腕じゃないみたいだってばー。


仕事が終わったら、


訓練まで馬鹿みたいにやらされるんだよ!


あの筋肉お化けのオッサンが、


死ぬまでしごくって言うんだから!」


エリオンは笑いながら言った。


「初日からいったい何を期待してたんだよ」


皆が笑い出すと、


トリーは指を突きつけて言った。


「笑わないでください!!


本当に大変だったんですから!」


沈んでいた空気が、


一瞬で息を吹き返した。


ひとしきり騒ぎが過ぎて。


いつの間にか、


日が傾き始めていた。


そろそろ夕食にしようとしていた頃だった。


その時。


宿の中へ、


見覚えのある人物が入ってきた。


中央教会で見かけた警備兵だった。


彼は辺りを見回して司祭を探し、


やがて一行を見つけると頷いた。


警備兵はまっすぐ近づいてきて、


一通の手紙を差し出した。


「お届けするよう命じられました」


司祭は黙って手紙を受け取った。


警備兵は用件を終えたというように軽く一礼し、


すぐに宿を出ていった。


司祭はしばらく手紙を見下ろしていた。


封印を確かめると、


短く息を吐いた。


それから懐から硬貨を数枚取り出し、


エリオンに渡した。


「君たちは先に食べていなさい」


そう言い残すと、


静かに階段を上っていった。


トリーは何が起きたのか分からないまま、


ぼんやりと階段の方を見ていた。


ベルも何となく、


エリオンの様子をうかがった。


エリオンは先ほどの司祭の言葉を思い出した。


その程度ではない。


私たちは……


司教様にお会いすることになる。


エリオンは気づけば、


階段の方を見つめていた。


その時。


トリーが目の前で手をひらひらと振った。


「兄さん!


しっかりしてください!」


エリオンはびくりとして視線を戻した。


トリーは呆れた顔で言った。


「司祭様もそうですけど、


兄さんもそうです。


急に何なんですか、この空気」


そう言って、


ベルの方へ顔を向けた。


「ベル、何かあったの?」


ベルはしばらくエリオンを見た。


それから深くため息をつき、


何となくトリーの腕をぱしんと叩いた。


「姉さん」


トリーは叩かれた腕を抱えて飛び上がった。


「痛っ!


姉さん!


筋肉痛で痛いんだってば!」


トリーは泣きそうな顔になった。


そして叩かれた場所を何度もさすった。


ベルはその様子を見て、


少しだけ笑った。


だがふと、


エリオンを見上げた。


エリオンはまだ何も言わなかった。


いつもなら一緒に笑っていただろうに……


今は違った。


彼はぼんやりと、


階段の方を見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ