発信
しばらくしてから、
司祭が下りてきた。
一行の視線は自然と彼へ向いた。
だが、
司祭は何も言わなかった。
ただ空いている席に座っただけだった。
「司祭様?」
トリーが待っていたと言わんばかりに口を開いたが、
司祭は答える代わりに宿の主人を呼んだ。
「スープを一つ頼む」
それきり、
口を閉ざした。
しばらくして。
スープが運ばれてくると、
司祭はゆっくりと匙を取った。
トリーが好奇心に満ちた目で見つめ、
ベルも様子をうかがうように視線を送った。
エリオンも彼をじっと見つめていた。
結局。
司祭はため息をつき、
匙を置いた。
「分かった。分かったよ」
トリーが身を乗り出した。
「何があったんですか?」
司祭は少し間を置いてから、
双子を見て言った。
「仮の後見人が、
面会を許した。
そう思っておきなさい」
双子は同時に目を瞬かせた。
何のことか理解できていない顔だった。
司祭は今度、
エリオンを見た。
「明日の夕方、
中央教会へ行こう」
エリオンは思わず唾を飲み込んだ。
「本当に……
会うんですか?」
司祭は力なく頷いた。
「その人に……?」
「そうだ」
短い答えだった。
司祭はまたため息をついた。
その顔には、
憂いが浮かんでいた。
エリオンは静かに頷いた。
トリーは二人を交互に見ていたが、
我慢できずに口を開いた。
「いや、いったい何の話なんですか!?」
誰も答えなかった。
「後見人って誰なんですか!
中央教会には何をしに行くんですか?」
司祭は知らないふりをして、
スープをすくった。
「どうして兄さんだけ連れていくんですか?」
ベルが眉をひそめた。
そしてトリーの腕をぱしんと叩いた。
「痛っ!」
トリーは叩かれた腕を抱えた。
「姉さん!」
「少しは大人しくして」
「気になるじゃん!」
「うるさい。
余計なところに首を突っ込もうとしないで」
トリーは泣きそうな顔をした。
それから、
様子をうかがいながら、
やけにパンだけをちぎって食べた。
それでも二人の方をちらちら盗み見ていた。
トリーが諦める気配を見せないと、
ベルが鋭く睨んだ。
トリーはびくりとして、
口をきゅっと閉じた。
そうして。
静かな空気が下りた。
食事が終わった後の夜。
トリーはもうすっかり寝入っていた。
ギルドで一日中しごかれたせいか、
いびきまでかいていた。
一方で。
司祭はまだ眠っていなかった。
窓辺に座ったまま、
静かに外を見ていた。
明かりが窓の向こうにかすかに映っていた。
エリオンは司祭を少しだけ見てから、
小さな机の前でペンを取った。
そうして灯火一つを頼りに、
便箋を見下ろした。
長い間ためらっていた彼は、
慎重に最初の一文を書いた。
――好きな
しばらくして。
その上に荒く線が引かれた。
エリオンは顔をしかめた。
もう一度ペンを取った。
――愛する
今度は書いてから、
しばらくそれを見つめた。
だが結局、
また線を引いてしまった。
「うう……」
エリオンは頭を掻いた。
好きな、だと曖昧だろうか。
愛する、だと重いだろうか。
結局、
彼は便箋の端を折り、
慎重に切り取ってしまった。
そして両手で頭を抱えた。
王都に残ることになったと書いたら怒るだろうか。
……怒るだろうな。
エリオンは思わずため息をついた。
何と書けばなだめられるだろう。
そもそも、なだめられるのか。
アカデミーの話は?
司教様の話は?
どこまで書けばいいんだ。
頭の中が複雑になっていった。
窓の外を見ていた司祭が、
ふとエリオンへ目を向けた。
そして小さく笑った。
「よく悩みなさい。
余計な火の粉がこちらに飛ばないようにな」
エリオンは泣きそうな顔で司祭を見た。
「司祭様、
僕は手紙なんて書いたこともないんですよ」
司祭はまた窓の外を見ながら答えた。
「自分で何とかすることだ。
他人の恋路まで、私に面倒を見ろと言うのか?」
エリオンは結局、
呻き声を漏らした。
司祭は小さく笑った。
エリオンは何となく天井を見上げた。
ふと、
サラの顔が浮かんだ。
むくれて怒っている姿。
その想像に、
思わず笑みがこぼれた。
だが……
すぐにまたため息が出た。
明日のことは……
大丈夫だろうか。
エリオンは少し考えてから、
小さく首を振った。
それから、
再びペンを取った。
そうして長い間。
書いて、
消して、
破って。
また書くことを繰り返した。
そうしてようやく、
一枚の手紙を埋めることができた。
エリオンはぐったりした顔で手紙を畳んだ。
ゆっくりと立ち上がり、
司祭へ近づいて差し出した。
「これ……
お願いします」
司祭は手紙を受け取ると、
表書きを見下ろした。
しばらくして。
小さく笑いが漏れた。
――恋しいサラへ。
「いいな。いい」
エリオンの顔が赤くなった。
「読まないでください」
「読む必要があるのか?
だいたい分かる内容だろう」
司祭は立ち上がった。
鞄の方へ歩いていき、
手紙を慎重にしまった。
「見たところで、役に立つ場面があるとも思えんしな」
エリオンは額を押さえてしまった。
司祭はその姿を見てしばらく笑い、
ゆっくりと寝台へ向かった。
寝台に腰を下ろしながら、
彼は言った。
「おかげで気が楽になったよ」
エリオンが顔を上げた。
司祭はまだ笑っていた。
「おかげでぐっすり眠れそうだ」
彼はそのまま寝台に横になった。
そして布団を引き上げた。
「君も早く寝なさい」
エリオンは何となく首の後ろを掻いた。
それから自分の寝台へ向かった。
寝台に横になり、
布団を引き上げた。
エリオンはしばらく天井を見つめ、
瞬きをした。
眠ろうとしても、
頭の中はひどく騒がしかった。
サラ。
司教。
後見人。
思考が次から次へとつながっていった。
すると、
司祭にからかわれたことが思い浮かんだ。
エリオンは小さく笑いを漏らした。
そうだ。
寝てから考えよう。
ほどなくして、
疲れがゆっくりとまぶたを重く押さえた。
そうして。
エリオンは深い眠りに落ちていった。




