表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巡礼者の道  作者: 잿빛서기관


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/55

整理②


朝食が終わると、


司祭が席を立ちながら言った。


「今日は傭兵ギルドへ行ってみよう。


時間があるうちに、一つずつ片づけていかないとな」


その言葉に、


トリーが慌てたように立ち上がった。


「い、行きましょう!


行きます!


行きましょう!」


そう言って無駄に先へ出ようとして、


椅子に引っかかり、転びかけた。


その姿に、


エリオンは思わず小さく笑ってしまった。


「トリー……


落ち着いて」


トリーはぎこちなく笑いながら、


頭を掻いた。


それからぎくしゃくと扉の方へ向かった。


一行は少しだけ顔を見合わせてから、


トリーの後を追って宿を出た。


王都の傭兵ギルド。


そこはラヘンと大きく違う場所ではなかった。


ラヘンの傭兵ギルドと似た規模で、


似た造りの建物だった。


ただ、


傭兵たちの雰囲気が違っていた。


鎖帷子をまとった傭兵。


重そうな鎧を身につけた傭兵。


よく手入れされた武器を提げた傭兵たち。


誰もが、


ただ者ではない気配を漂わせていた。


トリーがごくりと唾を飲み込んだ。


それから窓口に続く列の後ろへ、


おずおずと並んだ。


一行はあえて後を追わず、


近くで待った。


ベルが心配そうな目で見つめ、


エリオンは小さく手を振ってやった。


トリーはちらりと一行を振り返ってから、


再び窓口の方へ視線を戻した。


しばらくして。


ようやくトリーの番になった。


トリーは震える声で口を開いた。


「あ、あの……


カ、カトという傭兵が……


自分の名前を出して……


こ、この札を渡せって……!」


そう言って、


傭兵札を差し出した。


「そうすれば、


うまくやってくれるって……」


トリーの声はどんどん小さくなっていった。


窓口の職員はトリーを見て小さく笑い、


傭兵札を受け取った。


しばらく眺めていた職員が呟いた。


「ああ、鋼鉄傭兵団の傭兵札か」


それからトリーを見下ろした。


「よし。


横で少し待っていろ」


職員はすぐに後ろへ向かって声を張った。


「おい!


鋼鉄傭兵団に連絡を入れてこい!


新人が一人来たってな!」


遠くで誰かが首を伸ばして答えた。


「はい!


すぐ行ってきます!」


そう言うなり、


矢のように外へ飛び出していった。


その様子を見ていた司祭が、


ふと口を開いた。


「よく仕組みが整っているな」


それからベルを見た。


「仕組みが整っている場所は、


悪い場所ではない。


あまり心配しなくてもよさそうだ」


ベルは黙って頷いた。


けれど、


表情はまだ暗いままだった。


しばらくして。


大きな影がトリーへ近づいてきた。


体格が山のような男だった。


トリーは首をいっぱいに上げ、


その男を見上げた。


トリーと目が合った男はにやりと笑い、


彼の身体をあちこち眺めた。


「ふむ。


骨格は悪くないな。


身体はもう少し大きくする必要があるが……


まあ!


しっかり食わせればすぐ育つだろう!」


そう言うと、


トリーの背中をぱんと叩いた。


トリーが悲鳴を上げた。


「何をそんなに緊張している!


男だろう!」


トリーはじんじんする背中をさすった。


大柄な男が言った。


「それで、カトが送ってきたんだな!?」


「はい……


傭兵に興味があるなら来いって……」


男は豪快に笑った。


「よく来た!


男なら志を持つべきだ!


傭兵!


剣術!


依頼!


うむ!


浪漫の塊と言っていい!」


男が夢を追うには、


これ以上の場所はない!」


そう言うと、


自然にトリーの肩を抱き寄せた。


「さあ!


行くぞ!


俺がうちのギルドを案内してやろう!」


トリーはあっという間に引きずられていった。


その姿を見ていたベルが、


思わず一歩踏み出し、後を追おうとした。


だが、


司祭がすぐに腕を伸ばして彼女を止めた。


ベルはびくりとして、


司祭を見上げた。


司祭はゆっくりと首を横に振った。


「ここからは、一人でやらなければならない」


ベルは唇を噛んだ。


トリーがちらりと一行を振り返った。


一行は黙ってトリーを見守っていた。


まるで……


最後を見送っているようだった。


まだ、


別れの時でもないのに。


胸が妙に熱くなった。


トリーは一行を振り返ってから、


視線を前へ戻し、


大きく息を吸い込んだ。


拳をぎゅっと握り、


顔を引き締めた。


男がトリーをちらりと見て、


大きく笑いながら言った。


「そうだ!


男の顔はそうでなくてはな!


気に入ったぞ!」


そうして……


彼らは騒がしく遠ざかっていった。


宿へ戻る道だった。


傭兵ギルドを出た後も、


ベルは何度もギルドの方を振り返り、


不安そうにしていた。


司祭がベルをちらりと見て言った。


「心配するな。


きっと、うまくやる」


ベルは答えず、


唇をぎゅっと結んで深くうつむいた。


エリオンがベルの肩に手を置いて言った。


「迎えに来た人も、


悪い人には見えなかったよ。


雰囲気を見る限り、


大丈夫な場所だと思う」


ベルはエリオンをちらりと見上げ、


またうつむいて言った。


「うまく……


いくといいです」


エリオンは小さく笑い、


ベルの髪をそっと払ってやった。


ベルは髪を持ち上げてみてから、


小さく呟いた。


「お姉さんに会いたい……」


その言葉に、


エリオンはびくりとして、


口を閉ざした。


司祭は二人を見守っていたが、


ふと足の向きを変えて口を開いた。


「帰りに、


寄っていかなければならない場所がある」


エリオンは首を振るようにして表情を整えた。


それから司祭を見て尋ねた。


「どこですか?」


司祭が答えた。


「中央教会だ」


ベルとエリオンが同時に目を瞬かせた。


エリオンが言った。


「急にですか?」


「入学に関して、


必要な手続きがあってな」


その言葉に、


エリオンの顔がこわばった。


入学。


その言葉を聞いた瞬間、


緊張が押し寄せてきた。


トリーの番が終わった途端、


今度は自分の番が近づいてきた。


司祭はそれ以上説明しなかった。


先に歩き、


一行を導いた。


一行も静かに司祭の後へ続いた。


中央地区へ入るほど、


景色が変わっていった。


エリオンは思わず辺りをきょろきょろと見回した。


巨大な建物が立ち並び、


白い建物が陽の光を受けて美しく輝いていた。


あれを維持するには、


どれだけの金と人手が必要なのだろう。


そんなことを考えてしまうほどだった。


建物だけではなかった。


通りを行き交う人々の服装も違っていた。


従者を連れた貴族。


護衛騎士とともに歩く商人。


華やかなドレスをまとい、


扇を広げた婦人。


真っ白な正装に身を包み、


杖をついて歩く老人。


誰もが品格を備えていた。


エリオンは思わず口を開けた。


気にすることが多すぎて、


目に入っていなかった景色だった。


今になってようやく、


その姿が見え始めていた。


王都は本当に別世界だった。


ベルも目を丸くして辺りを見回していた。


エリオンも呆けたように眺めていると、


通り過ぎた婦人がくすりと笑いながら、


ウインクを投げてきた。


エリオンが慌てて目を逸らすと、


彼女はくすくす笑いながら通り過ぎていった。


その様子に司祭は小さく笑い、


すぐにまた歩き出した。


ほどなくして、


中央教会に到着した。


ところが……


思っていたより小さかった。


ラヘンの双子教会より、


ずっと小さく感じられた。


華やかでもなく、


質素で端正な場所だった。


中央教会といえば、


当然、巨大な建物を想像していたのに……


意外だった。


その時、


近くから誰かの声が聞こえてきた。


「何だよ。


中央教会っていうから来てみたのに、


ずいぶんしょぼいな」


若い男の声だった。


そばにいた中年の男が舌打ちした。


「まったく、見た目しか分からん奴だな」


「ここは初めて教会が建てられた場所だそうだ」


中年の男は教会へ顎をしゃくった。


「大きさが大事なのか?


意味が大事なんだよ」


若い男は気まずそうに笑って言った。


「知らなかっただけですよ。


知らなかっただけですって。


なるほど、そういうことなんですねえ。」


その言葉に、


エリオンも小さく頷いた。


そういうことか。


エリオンは中央教会を見上げた。


意味が大事、か……


何か大切な教えを悟ったような気がした。


司祭はエリオンとベルに待つように言うと、


中央教会の入口へ近づいた。


門番が司祭を遮り、


用件を尋ねた。


「関係者以外は立ち入り禁止です。


ご用件があるなら官庁へ……」


司祭は懐から一通の手紙を取り出した。


「重要な書簡です」


そして静かに付け加えた。


「ガレク・テリオ司教様へお渡しください」


門番が眉を上げた。


彼は手紙を受け取ると、


表と裏を確かめながら不思議そうにした。


そして……


差出人を確認した瞬間。


門番の表情が固まった。


差出人――アント・テリオ。


彼の目が見開かれ、


慌てて頭を下げた。


司祭が構わないと手を振ると、


門番は顔を上げ、


震える声で言った。


「しょ、少々お待ちください!」


彼はすぐに中へ駆け込んでいった。


その様子を、


ベルとエリオンは不思議そうに見守っていた。


しばらくして。


門番が管理者らしき男とともに戻ってきた。


管理者は手紙を見ながら差出人を確認した。


そして眉間にしわを寄せ、


ため息をついた。


まるで、


面倒な問題を抱え込んだ人のようだった。


男は遠くから司祭を横目で見て、


首を横に振った。


管理者は門番に何かを告げると、


中へ入っていってしまった。


門番が再び司祭のもとへ近づき、


丁寧に言った。


「お預かりしました。


返事がございましたら、


お届けいたします」


それから慎重に尋ねた。


「お泊まりの宿を教えていただけますでしょうか」


司祭は頷き、


宿の名を告げた。


用件はそれで終わりだった。


司祭は振り返り、


歩き出した。


すると、


じっと自分を見つめるベルとエリオンと目が合った。


「何をそんなに見ている?」


エリオンは少し迷った。


「司祭様……


思っていたより偉い人だったんですか?」


司祭は小さく笑って答えた。


「そうだったなら、


こんなふうに歩き回ってはいないだろう」


司祭の言葉に、


ベルとエリオンは顔を見合わせた。


互いに、


分からないという顔をしていた。


司祭は首を横に振り、


先に立って歩き出した。


「ひとまず宿へ戻ろう」


そう言って、


口を閉ざしてしまった。


ベルとエリオンはそれ以上尋ねることができず、


静かに後についていった。


彼らはそうして、


静かに宿へ向かって歩いていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ