送別②
その日の夕方。
一行は小さな食事の席を設けた。
今回は酒がなかった。
続けて飲むのがつらいからというより、
この時間を酒の勢いで流してしまいたくなかったからだ。
他の者たちも同じようだった。
レアでさえ、
酒の代わりに飲み物を口にしていた。
食卓には、
十分な量の料理が並んでいた。
茹でた芋に、豆のシチュー。
白いパンに、温かいスープ。
病人でも食べやすいものばかりだった。
料理を前にして、
皆、レアばかりを見ていた。
レアが先に匙を取ってようやく、
他の者たちも匙を取った。
一口すくってはレアを見て、
口を動かしながらもレアを見ていた。
どうしても、
視線が彼女の方へ向いてしまう。
レアは眉をひそめ、
ため息をついた。
何か言いかけたが、
結局飲み込んだ。
彼らがどうしてそうしているのか、
レアにも分かっていた。
レアは飲み物を一口飲み、
小さく呟いた。
「……胃にもたれそうだな」
食事はゆっくりと続いた。
ベルが白いパンをちぎって渡したり、
食べたいものはないかと尋ねたりした。
レアはしばらく居心地悪そうにしていたが、
やがて匙を置いた。
一行も一緒に匙を置いた。
「先に上がる」
その言葉に、
一行もつられて立ち上がった。
彼女は呻くような声を漏らしながら首の後ろを押さえ、
何か言いかけては飲み込み、
上の階へ上がっていった。
一行も後を追いかけたが、
小さな部屋の前で足を止めた。
レアが人差し指で彼らを指しながら言った。
「ここまでついてくる気か?
やめとけ」
そうして、
静かに扉が閉まった。
ぼんやりと時間を過ごしているうちに、
いつの間にか眠る時間になっていた。
寝台に身体を横たえると、
気を失うように眠りに落ちた。
何かあったわけでもないのに、
ひどく疲れていた。
そうして深く眠り込み……
気がついた時には、
日はすでに高く昇っていた。
エリオンははっとして飛び起きた。
……レア!
エリオンは慌てて起き上がり、
扉を開け放った。
もう行ってしまったんじゃないだろうな!
彼は小さな部屋の扉を叩きながら言った。
「ベル!
中にいるか!?
レア! まだ行ってませんよね!」
ベルが寝ぼけた様子で扉を開けた。
目をこすりながら、
エリオンを見上げて言う。
「レアお姉さん……
まだ寝てます」
開いた扉の隙間から覗くと、
レアは寝台の隅で丸くなっていた。
エリオンは安堵の息を吐いた。
「起こしてごめん。
レアが起きたら教えてくれる?」
ベルは頷くと、
静かに扉を閉めた。
ぱたん。
エリオンは扉の前で胸を撫で下ろした。
しばらくして、
小さな部屋から人の気配がした。
エリオンは司祭とトリーを起こした。
司祭は静かに寝台から起き上がった。
そしてエリオンと扉の方を交互に見た。
「レアは……
まだ発っていないようだな」
「はい。
今、起きたみたいです」
トリーも寝ぼけた様子で起き上がり、
辺りを見回した。
それから、
一気に目を覚まして立ち上がった。
「レア姉は!?」
エリオンは首を振った。
「まだ行ってない」
「よかった!
見送りもできないかと思った!」
少しして、
ノックの音が聞こえた。
「兄さん、
準備が終わったそうです」
エリオンは慌てて外へ出て、
扉を開けた。
扉の前にはベルが立っていた。
その後ろに、
普段着姿のレアが見えた。
ベルが選んだ服はぴったり合っていて、
よく似合っていた。
エリオンがぼんやり見ていると、
レアが笑って冗談を飛ばした。
「何だよ。
見惚れたか?」
軽く冗談を言うその姿は、
以前の彼女を見ているようだった。
エリオンは思わず笑ってしまった。
他の者たちの表情も、
少しだけ緩んだ。
レアは頷くと、
顎で階段の方を示して言った。
「行こう。
けじめをつけないとな」
レアが先頭に立って階段を下りた。
一行もすぐに後へ続いた。
ほどなくして、
南の城門に着いた。
多くの人々が行き交う道。
その人混みの中で、
一行はレアだけを見つめていた。
ベルは泣きそうな顔で見ていた。
トリーはもう泣いていた。
鼻をすすりながら堪えようとしていたが、
涙も鼻水も止まらなかった。
エリオンと司祭は、
ただレアをじっと見つめていた。
レアは一行を見回すと……
一歩前へ出た。
まずベルの前へ行った。
レアはベルの前髪をそっと払ってやりながら言った。
「ありがとうな、ベル。
可愛い弟ができたみたいだった」
ベルの目から涙がこぼれた。
レアはその涙をそっと拭い、
トリーへ視線を移した。
トリーは相変わらず、
涙も鼻水も垂れ流していた。
「お前は……
汚くて拭いてやれないな」
そう言って、
乱暴に頭を撫でた。
次に、
司祭へ視線を移した。
レアは軽く頷いて言った。
「お元気で。
堅物さん」
司祭は頷いた。
それから懐を探り、
何かを取り出して差し出した。
司祭が使っていた短剣だった。
「懐事情が厳しくて、
新しい物は買ってやれなかった」
レアは一瞬戸惑い、
迷ったようにした。
それからかすかに笑って受け取った。
「大事に使うよ。
ありがとう」
そしてエリオンへ視線を移した。
レアは口を閉じると……
彼の胸を軽く叩いて言った。
「今まで通りに生きな。
それが似合ってる」
エリオンは、
どうしても言葉を出せなかった。
何かが込み上げてきて、
喉を強く塞いでいるようだった。
レアはもう一度一行を見回し、
小さく笑って口を開いた。
「そんな顔するなよ。
それでも……」
彼女は目を閉じ、
少し考えてから続けた。
「それでも、楽しかった」
そして、
きっぱりと背を向けた。
歩き出しながら、
一行へ向けて軽く手を振った。
「行くよ!
お前ら、元気でな!」
彼女はそうして、
ゆっくりと遠ざかっていった。
エリオンは遠ざかるレアを見つめていた。
そして彼女へ向かって叫んだ。
「レア!!
元気でいてください!!」
レアはちらりと振り返った。
そしてもう一度手を振りながら、
遠ざかっていった。
彼女の姿が遠く見えなくなるまで、
一行はどうしても目を離せなかった。




