送別 ①
気がついた時には、日はすでに高く昇っていた。
頭が割れそうだった。
エリオンは頭を押さえたまま、
しばらく呻き声ばかり漏らしていた。
口の中には、まだ安酒の匂いが残っている。
彼はふらつきながら起き上がり、
背嚢から水筒を取り出して飲んだ。
それでようやく少し楽になった。
意識がはっきりしてきて周囲を見回すと、
トリーが枕に顔を埋めていた。
司祭は……
そこにいなかった。
エリオンはしばらく空いた場所を見つめた後、
ふらつきながら部屋を出た。
階段を下りると、
一階の食卓に見慣れた姿があった。
司祭が座っていた。
やつれた顔で、
水の入った杯だけを握っている。
その向かいにはレアが座っていた。
彼女は豆のシチューを前にして、
ゆっくりと口に運んでいる。
エリオンは二人を見た。
「……何してるんですか?」
司祭が力なく顔を上げた。
「生き延びているところだ」
レアが小さく笑った。
「腹が減ったのに、金がなくてさ」
エリオンは司祭を見た。
「それで……
連れてこられたんですか?」
司祭は答える代わりに、
水を一口飲んだ。
それが答えだった。
レアが肩をすくめて言った。
「今の私は一文無しだからな。
ちょっと世話になってる」
エリオンはレアを見て言った。
「身体は大丈夫ですか?」
レアはシチューを口に運びながら言った。
「腹が減るってことは、
悪くはないんだろ」
エリオンは二人のそばへ行き、
司祭の隣にどさりと座った。
エリオンは水差しへ手を伸ばした。
杯に水を注ぎ、
ゆっくりと飲む。
その様子を見ていたレアが、
匙の先でエリオンを指した。
「私がいない間に、
また何かやらかしてないだろうな?」
エリオンは杯を置きながら言った。
「あれは初めてだったからで……」
司祭がちらりとエリオンを見た。
エリオンはその視線を受け、
少し口ごもってから言った。
「……僕、何かしました?」
司祭は首を振った。
「気を失った君を、
誰が部屋まで運んだと思っているんだ」
その言葉に、
レアが小さく笑った。
「田舎者……
お前、本当に酒は飲まない方がいいな」
エリオンは呻き声を漏らした。
そして誤魔化すように、
もう一口水を飲んだ。
エリオンはレアをちらりと盗み見た。
彼女の口元には、
まだ小さな笑みが残っていた。
しばらくすると、
ベルとトリーも一階へ下りてきた。
ベルはレアの姿を確認するなり、
安堵した表情で彼女のそばに座った。
レアは何も言わず、
ベルの頭を軽く撫でた。
トリーもやつれた顔でよろよろと下りてきて、
エリオンの隣に崩れるように座った。
「本当に……
お酒は嫌い……」
トリーは水差しへ手を伸ばした。
だが水差しは、
すでに軽かった。
トリーは水差しを振ってみて、
力なく置いた。
そして食卓に額を押しつけた。
「何もうまくいかない……」
顔を伏せたまま、
さらに言葉を続ける。
「お姉さんの買い物にも、
ついていかなきゃいけないのに……」
レアが笑って言った。
「それで本当について来られるのか?」
「うう……
行きます……」
トリーはそう言いながらも、
食卓から顔を上げることができなかった。
エリオンはその姿を見てから、
水と豆のシチューを追加で頼んだ。
水が運ばれてくると、
エリオンはトリーの杯に注いでやった。
トリーは手を震わせながら、
何とか水を飲んだ。
「生き返った……」
レアが小さく笑った。
空気が少しずつ緩んでいった。
食事を終えると、
一行は商業区へ向かった。
露店には人が集まり、
商人たちの声があちこちから流れてくる。
通りでは様々な品物が売られていた。
だが一行はそれらを通り過ぎ、
まっすぐ生活用品を扱う店へ向かった。
レアが最初に手に取ったのは、
一番安そうな外套だった。
「これでいいだろ」
その言葉に、
ベルが首を横に振った。
「駄目です」
レアが目を瞬かせた。
「何が」
ベルは答える代わりに、
外套をレアの肩へ直接当ててみた。
それから袖の長さを見て、
裾を触り、
首を横に振った。
「長く着て歩くんですよ。
ちゃんと合うものを買わないと」
レアは気まずそうな顔をした。
「いや……
安けりゃいいんだけど」
そう言いながら、
司祭の顔色をうかがった。
「駄目です」
ベルはきっぱりと言った。
司祭が小さく笑って言う。
「ベルの言う通りにしなさい。
金なら……
どうにか当てがある」
レアはため息をつき、
ベルの言う通りにしてやった。
ベルは市場を歩き回りながら、
マントや靴まで一つ一つ確かめていった。
足に合っているか。
重すぎないか。
長く歩いても擦れないか。
レアは恐縮していたが、
最後まで断ることはなかった。
次は鞄だった。
食料と水筒、
包帯と薬草、
火打ち石などを詰め込んだ。
そうして一つずつ揃えていくうちに、
レアには何も残っていないのだと、
改めて分かってしまった。
本当に些細な物まで、
すべて買い直さなければならなかった。
レアはしばらく鞄を見下ろした。
「すっかり新しい出発だな」
ベルが鞄の紐を慎重に整えてやった。
「重くないですか?」
「大丈夫」
レアは肩にかけてみて、
少しぎこちなく笑った。
司祭は代金を払うたびに、
懐の金袋を確かめていた。
余裕があるわけではなかった。
それでも、
必要な物は一つずつ揃っていった。
エリオンは途中途中で荷物を持ってやり、
トリーは二日酔いに呻きながらも、
最後までついて回った。
そうして値段と質を比べながら、
一行は長い間、商業区を歩き回った。
夕暮れになる頃になってようやく、
必要な品はほとんど揃っていた。
レアの肩には新しいマントがかかり、
背中には新しい鞄があった。
これで一人で旅立てるだけの準備は整った。
レアは鞄を軽く持ち上げてみた。
「悪くないな」
彼女はそう言って笑った。
身支度を整えた姿は、
以前のレアのように見えた。
本当に……
準備は終わってしまった。
送り出さなければならない時が、
近づいていた。
他の者たちもそれを分かっているのか、
ただ静かにレアを見つめていた。
視線を受けたレアは、
頬を掻きながら言った。
「……穴が開くっての」
そう言って、
わざと宿の方へ先に歩き出した。
一行も彼女の後を追った。
準備は終わった。
送り出さなければならない時が……
少しずつ近づいていた。




