再会
どうやって王都まで辿り着いたのかすら、
覚えていなかった。
一行はただ歩いた。
巡礼路に沿って歩き。
誰かの荷車に乗せてもらい。
また歩き。
そうして夢中で道を急いでいるうちに、
いつの間にか王都が目の前に現れていた。
エリオンは顔を上げた。
巨大な城塞。
王都はまるで、
一つの巨大な教会のようだった。
天を突くような尖塔が中心にそびえ、
いくつもの教会が互いに繋がり、
城壁を成していた。
その城壁は下から幾重にも積み重なるように築かれている。
人の手で造られたとは信じがたい光景だった。
巡礼者なら、
誰もが感嘆しただろう。
だが。
誰も口を開かなかった。
皆、沈黙したまま王都を見つめるだけだった。
一行は長い列に並び、
城門をくぐった。
人々で賑わい、
華やかな建物が果てしなく並んでいる。
宿を勧める子どもたちが集まってきた。
「司祭様!
安くていい部屋がありますよ!」
「こちらへどうぞ!」
いつもなら、
司祭が手慣れた様子で値段交渉を始めていただろう。
だが、
今日だけは違った。
司祭は力なく言った。
「一番安い部屋で……」
子どもたちは目を輝かせ、
先に立って歩き出した。
一行は何も言わず、
その後についていった。
辿り着いた宿は粗末だった。
黴の匂いと酒の匂いが混じり合い、
建物は湿っていて暗かった。
だが、
誰も文句を言わなかった。
部屋に入った途端、
皆の緊張が一斉に解けた。
ベルは倒れ込むように寝台へ身を投げ出し、
そのまま眠ってしまった。
トリーも鞄を下ろすと、
それを枕代わりにして床に横になった。
司祭は壁にもたれたまま目を閉じた。
エリオンは床にどさりと座り込んだ。
目を閉じると、
森の中へ消えていったレアの背中が浮かんだ。
それを最後に。
意識は深い眠りの底へ沈んでいった。
翌日。
役所へ行き、
巡回隊員の行方不明を届け出た。
職員は巡回隊員の名前や役職、
容貌などを尋ねた。
一行はまともに答えることができなかった。
考えてみれば、
彼の名前も役職も知らなかった。
司祭が代表して、
彼の見た目を説明した。
服装。
話し方。
出身の村まで。
司祭が説明している間、
エリオンの表情は暗く沈んでいった。
彼は額に手を当て、
拳を強く握り締めた。
……僕は一体、何をしているんだ。
エリオンは立ち尽くしたまま、
呆然としていた。
ふと、
彼は首を横に振った。
こんなことをしている場合ではない。
エリオンが顔を向けると、
双子がこちらを見ていた。
不安に強張った顔。
エリオンは表情を引き締めると、
拳を強く握った。
そして背を向け、
周囲の人々を捕まえて聞き込みを始めた。
王都近郊に現れた盗賊団について。
レアという女傭兵について。
行方不明になった巡回隊員について。
「よく分かりませんね」
「そういう人はいません」
エリオンは諦めなかった。
やがて。
聞き込みの末に、
小さな情報を得ることができた。
「ああ……あいつらか?
ついさっき討伐されたって話なら聞いたぞ」
エリオンは小さな希望を抱いた。
だが。
「生存者?
そこまでは知らないな」
その言葉に、
また突き落とされた。
二日目。
一行は日が昇るとすぐに役所へ向かった。
何か新しい知らせが入っていないか確認した。
成果はなかった。
一行は静かに役所を出ると、
そのまま傭兵ギルドへ向かった。
そして。
村で生存者が見つかったという知らせを聞いた。
レアと巡回隊員の名簿は確認できなかった。
それでも、
一行はかすかな期待を抱いた。
レアも巡回隊員も、
生きているのではないか。
宿へ戻る一行の足取りは、
ほんの少しだけ軽くなったようだった。
三日目。
役所で巡回隊員の名簿を確認することができた。
テト、死亡。
一行は何も言えなかった。
本当にあの巡回隊員なのか何度も確認したが、
彼で間違いなかった。
なら……
レアも?
エリオンの足がふらついた。
ベルは口元を覆い、
トリーは「そんなはずない……」と呟いた。
司祭はその様子を見つめた後、
口を開いた。
「レアは……
まだ分からない」
そう言って、
一行を連れて傭兵ギルドへ向かった。
そして。
そこでレアの情報を聞くことができた。
レア、生存。
王都へ搬送。
記録はそこまでだった。
司祭が行方を尋ねると、
そこまでは分からないという返答だった。
ただ、
近いうちに王都へ到着するかもしれないという。
その言葉に、
一行の顔にかすかな光が差した。
だが、
誰も大きく喜ぶことはできなかった。
テトの名が、
まだ頭の中に残っていた。
一行はギルドを出ると、
周囲を見回した。
もしかしたら、
もう来ているのではないか。
黒い髪を見るたびに、
レアの名を呼んだ。
だが、
彼女ではなかった。
後ろ姿の似た人を捕まえた。
やはり、
彼女ではなかった。
そうして日が暮れる頃まで探し回り、
重い足取りで宿へ戻っていった。
レア……
どこにいるんですか。
その時だった。
人々の間を、
見慣れた輪郭が通り過ぎた。
黒い短髪。
見覚えのある体つき。
エリオンの目が大きく見開かれた。
そして、
確信とともに駆け出した。
「レア!」
その叫びに。
彼女が振り返った。
彼女は……
間違いなくレアだった。
だがレアへ近づくほど、
エリオンの足取りは遅くなっていった。
エリオンの顔が強張っていく。
レアはエリオンを見ると、
苦しげに口元を上げた。
「何よ……その顔」
エリオンは足を止め、
彼女を見つめた。
顔はやつれていた。
着ている服はぼろぼろで、
外套の下からは包帯がちらりと見えていた。
後を追ってきた一行も、
足を止めて彼女を見つめた。
レアは彼らに向かって、
小さく手を振った。
だがその指先は、
かすかに震えていた。
しばしの沈黙が流れた。
彼女は何でもないふりをして、
一歩踏み出しながら言った。
「とりあえず……
戻ろう。休みたい」




