太陽
一行はしばらく、森の近くを離れられなかった。
森の中から、
今もなお怒号と悲鳴が聞こえてくるようだった。
司祭が長く息を吐いた。
「ひとまず、ここから離れよう」
その言葉に、
全員が現実へ引き戻された。
司祭は森を見た。
「まだ終わっていない」
その声は重く沈んでいた。
「今さら捕まれば、すべてが無駄になる」
彼は両手で双子の背をそっと押した。
「行こう」
トリーとベルは力なく足を動かした。
二人はゆっくりと巡礼路の方へ歩き始める。
エリオンは森を見つめた。
その中には、
湿った闇だけが広がっていた。
レアの姿は、
やはりどこにも見えない。
結局、
彼もまたゆっくりと身体を向けた。
何も言わず、
司祭の後を追った。
巡礼路に辿り着くと、
空気が変わった。
世界は何事もなかったかのように穏やかだった。
道の上では、
人々がいつも通り行き交っている。
商人たちは荷を引き、
旅人たちは話しながら通り過ぎていった。
ベルが道端にへたり込んだ。
トリーも呆然と立ち尽くしていたが、
やがて握っていた棍棒を見下ろした。
赤い血が、
ところどころ乾いてこびりついている。
トリーはしばらくそれだけを見つめていた。
そして棍棒を落とした。
司祭がトリーの肩に手を置く。
エリオンは呆然と空を見上げた。
最後に見たレアの姿が浮かんだ。
盗賊たちの中へ飛び込んでいく姿。
自分たちを守るために、
一人で残った。
エリオンは太陽の首飾りを強く握り締め、
ぎゅっと目を閉じた。
どうか。
どうか、神よ。
彼女をお守りください。
皆が沈み込んでいた時だった。
カッ、カッ、カッ、カッ。
どこからか馬蹄の音が聞こえてきた。
司祭が先に顔を上げた。
トリーとベルも、
音のする方を見た。
巡礼路の向こう。
鉄鎧をまとった軍馬が一騎、
こちらへ近づいてきていた。
月明かりを受けた鎧が、
かすかに光っている。
聖騎士だった。
聖騎士は次第に近づくと、
一行の前で手綱を引いた。
ヒヒン。
軍馬が前脚をわずかに上げ、
その場に止まる。
馬上の聖騎士が、
一行を見下ろした。
沈黙が流れた。
やがて兜の中から、
低く重い声が響いた。
「何があった」
その一言が終わるよりも先に、
ベルの唇が震えた。
乾き切っていたはずの涙が、
再び溢れ出した。
「ひっ……く……」
聖騎士は一瞬、固まった。
そして一行の濡れた顔を、
順に見回した。
巡礼路の上に、
深い悲しみが降りた。
聖騎士は一行の話を黙って聞いた。
病人と巡回隊員。
盗賊と村。
そして、
一人残ったレアのことまで。
話が終わる頃、
兜の奥から低い嘆息が漏れた。
「……なんということだ」
彼は森の方を見た。
「討伐隊が動いていたはずだが。
少し遅かったか」
一行の表情が、
さらに暗く沈んだ。
聖騎士はしばらくベルを見下ろしていたが、
小さく息を吐いた。
そして馬から降りた。
鉄鎧が触れ合い、
鈍い音を立てる。
彼はベルの前で片膝をついた。
「……」
ベルはしゃくり上げながら彼を見た。
聖騎士は少し迷った後、
籠手をはめた手で、
不器用にその目元を拭ってやった。
冷たい金属が頬に触れる。
「泣かないでくれ」
ベルは無理に涙を飲み込もうとした。
だが先に息が崩れた。
むしろ堰を切ったように、
大きく泣き出してしまった。
聖騎士は黙っていたが、
やがてゆっくりと立ち上がった。
今度はトリーを見る。
そしてトリーの足元へ視線を落とした。
血のついた棍棒。
彼はそれを無言で見つめた。
トリーはただ、
地面を見つめていた。
聖騎士が手を伸ばし、
トリーの頭を軽く撫でた。
「よく耐えた」
トリーは何も言えなかった。
聖騎士は森のある方角を見た。
しばらく考え込むようにしていたが、
やがて口を開いた。
「森に病人を隠したと言ったな。
その傭兵も、まだ中にいるのか」
エリオンは頷いた。
聖騎士が言った。
「私が直接行って確かめよう」
聖騎士は森を見たまま続けた。
「運が良ければ……
生きているかもしれない」
その一言で、
少しだけ息ができるような気がした。
エリオンは首飾りを強く握り締めた。
聖騎士は馬の方へ歩いていき、
自然な動きで鞍にまたがった。
「あなた方は王都へ向かいなさい」
彼は手綱を握りながら言った。
「安全な場所で、知らせを待つ方がいい」
兜がゆっくりと一行へ向く。
「どんな知らせであれ、
王都にいれば一番早く耳に入るはずだ」
一行は何も言えなかった。
聖騎士は彼らを見つめた後、
馬首を返した。
そして迷うことなく森へ向かって駆け出した。
聖騎士は駆けながら、
空へ向けて矢を放った。
鋭い笛のような音が空気を裂く。
しばらくして、
遠くを巡回していた従騎士が馬を駆って合流した。
そうして彼らは、
夜道を切り裂くように遠ざかっていった。
一行は静かにその背中を見つめていた。
少しずつ小さくなっていく騎士と軍馬の影。
それが最後の希望であるかのように。
彼らは長い間、
その場を離れることができなかった。




