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巡礼者の道  作者: 잿빛서기관


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それぞれの道

第三十一話 それぞれの道


エリオンは、

商人から受け取った薬瓶をぼんやりと見つめていた。


小さなガラス瓶の中で、

緑色の液体が揺れている。


その様子を見ていた婦人が、

とうとう堪えきれず声を荒げた。


「これで最後って言ったじゃないですか!」


彼女の顔には、

不安と苛立ちが入り混じっていた。


「薬だって貰えたんだし、

適当に飲ませて先へ行きましょうよ!


私たちは十分やったわ!」


夫は困ったような顔で妻を見た。


そして長くため息を吐く。


「……落ち着きなさい」


エリオンは何も答えられなかった。


神官も静かにため息を漏らした。


彼はしばらく病人を見つめていたが、

ゆっくりと口を開く。


「……ひとまず――」


その時だった。


レアの目がふと遠くを見た。


「……誰か来る」


皆の視線が巡礼路の先へ向けられる。


遠くから人影が近づいてきていた。


丸い鉄兜がまず目に入った。


首には煤けた布を巻き、

古びたマントを羽織っている。


胸にはあちこち傷の付いた、

分厚い革鎧を着込んでいた。


それぞれ槍や盾、剣を携えている。


彼らは徐々に近づいてきた。


神官が小さく呟く。


「……巡回隊か」


その瞬間、

エリオンの顔にかすかな希望がよぎった。


だが、

すぐにまた表情は固まる。


もし――


また断られたら?


心臓が激しく脈打ち始めた。


頼む、頼む……


巡回隊はどんどん近づいてくる。


トリがごくりと唾を飲み込んだ。


ベルも期待した顔で彼らを見つめる。


一方で婦人は、

待っていたと言わんばかりに口を開いた。


「もうあの人たちに任せて行けばいいんですよ!」


夫も慌てて頷く。


「ああ、巡回隊なら何とかしてくれるだろう」


巡回隊は一定の距離を置いて立ち止まった。


警戒の目で、

一行と周囲の森を交互に見回している。


短く視線を交わした巡回兵たちは、

ひそひそと何かを話し合った。


しばらくして、

周囲を警戒しながら近づいてくる。


一行の前まで来ると、

先頭の男が口を開いた。


「病人がいるようだな」


彼は真っ直ぐ病人のもとへ歩み寄った。


神官の膝を枕にしている男を見て、

額の布まで確認すると、

困ったように息を吐いた。


神官が静かに口を開く。


「衰弱があまりにも激しいのです。


聖法もほとんど効いておりません」


隊長は神官をちらりと見てから、

ゆっくり立ち上がった。


「これは困ったな……」


彼は後ろ首を掻いた。


「こっちも人手不足なんだがな」


横にいた隊員の一人が、

さりげなく口を挟む。


「隊長、放って行って後で刺されたらたまりませんぜ」


隊長はしばらく考え込んだ。


やがて後方に立っていた巡回兵へ顎をしゃくる。


「おい、サボり屋」


呼ばれた巡回兵は顔をしかめた。


「へぇ……」


ぶつぶつ言いながら前へ出てくる。


「なんでよりによって俺なんですかねぇ」


隊長はくすりと笑った。


「お前、この辺の出身だろ?」


そう言って病人の方を顎で示す。


「一日も歩けばお前の故郷の村の近くだ」


サボり屋と呼ばれた巡回兵は顔をしかめた。


「……あんな田舎、嫌になって飛び出したのいつの話だと思ってるんです」


隊長は気にも留めず続ける。


「ついでに周辺の様子も見て来い」


肩をすくめた。


「まったくの無駄足ってわけでもないだろう」


サボり屋は「うーん……」と唸りながら頭を掻いた。


しばらく悩んだ末、

大きくため息を吐く。


「……まあ、人を見捨てて行くわけにもいきませんしね」


その言葉を聞いた瞬間、

一行の顔にわずかな安堵が浮かんだ。


だが次の言葉が続くと、

夫婦の表情が固まる。


「でも俺一人じゃきついんですよね……」


彼は病人と一行を交互に見た。


「担いで行くのも大変だし、

途中で何かあったらどうにもならんです」


そして一行を見回した。


「誰か一緒に来てくれる人が必要なんですが……」


その瞬間、

静かな沈黙が落ちた。


夫婦は互いに顔色を窺い始める。


夫の顔は微妙に強張り、

妻は露骨に視線を逸らした。


老傭兵は意味もなく口髭をいじる。


エリオンは病人を一度見た。


容態は相変わらず危うい。


エリオンはゆっくり口を開く。


「……僕が行きます」


その瞬間、

レアがすぐにため息を吐いた。


「……だろうと思った」


サボり屋は頷くと、

夫婦へ視線を向けた。


夫は彼を見ながら強い口調で言った。


「はっきり言いますが、

私たちは行けません」


そして草原の向こうを見やる。


「盗賊が出るって話なのに、

わざわざ安全な道を外れろと言うんですか?」


彼は声を低くした。


「命を懸けて助けろという話でしょう」


それからゆっくり首を振る。


「……そこまではできません」


そう言い終えると、

夫はそのまま勢いよく背を向けた。


妻も怒ったような顔で唇を噛む。


だがやがて、

その視線が双子へ向かった。


「……あの子たちはどうするつもりなのかしら」


彼女は表情を和らげ、

深いため息を吐いた。


そして夫の後を追う。


老傭兵も肩をすくめた。


「まあ……それぞれの道があるということじゃな。


楽しかったよ」


彼は主人公たちへ向かって、

軽く手を上げてみせた。


「みんな、達者でな」


彼も夫婦の後を追って歩いて行く。


そうして、

彼らは去っていった。


空気は重く沈んでいた。


神官は何も言わず、

病人を背負う。


ぐったりとした病人の腕が、

神官の肩の下で力なく揺れた。


レアは頭をがりがりと掻きながら、

苛立ち混じりのため息を吐く。


「……ほんと勘弁してほしいわね」


隊長はその様子をしばらく見ていたが、

サボり屋へ向かって言った。


「よし、しっかり送り届けてやれ」


そしてにやりと笑う。


「終わったらラヘンでまた会おう」


サボり屋は顔をしかめ、

面倒そうに手をひらひら振った。


「はいはい……分かりましたよ」


隊長は小さく笑うと、

ゆっくり一行へ向き直った。


そして短く頭を下げる。


「ご協力に感謝します」


静かな声で続けた。


「神もきっとお喜びでしょう」


エリオンはその言葉を聞いても、

すぐには返事ができなかった。


ただ病人を見つめるばかりだった。


隊長はそれ以上何も言わない。


軽く挨拶すると背を向けた。


装備同士がぶつかる音が鳴り、

重い足音が続いていく。


そうして巡回隊は、

街道の先へと遠ざかっていった。

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