表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巡礼者の道  作者: 잿빛서기관


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/55

亀裂

夜が明けると、

粗末な小屋の中も少しずつ明るくなり始めた。


エリオンもゆっくりと身を起こした。


家の中には、まだかすかに温もりが残っていた。


扉の向こうから、

レアと神官が話す声が聞こえてきた。


エリオンはぼんやりと周囲を見回した。


夫婦は互いに抱き合ったまま眠っており、

トリは大の字になって深い眠りについていた。


ベルは身体を丸め、

マントをぎゅっと抱きしめていた。


エリオンは思わず笑みを浮かべながら、

トリの肩を揺すった。


「トリ、起きろ」


「うぅん……」


トリはぐずるように身をよじった。


エリオンがもう一度肩を揺すると、

ようやく身体を起こし、

あくびをしながら大きく伸びをした。


「くぅぅ……」


今度はエリオンがベルへ手を伸ばした。


「ベル」


ベルは眠そうな顔で目をこすりながら、

なんとか身体を起こした。


「……はい……」


周囲が少しずつ騒がしくなると、

夫婦も目を覚まし、静かに起き上がった。


トリはしばらくぼんやりしていたが、

身体を軽く叩きながら言った。


「ふぅ……暖かいところで寝たからかな?

 少し身体が楽になった気がする」


ベルはちらりとトリを見て呟いた。


「私は暑くて、あまり眠れなかったけど……」


エリオンは小さく笑い、

ベルの目元についていた目やにを取ってやった。


ベルは照れくさそうに顔を背けた。


エリオンは立ち上がり、外へ出た。


朝だというのに、

辺りには柔らかな温もりが漂っていた。


淡い光の粒が、

タンポポの綿毛のようにゆっくりと宙を舞っている。


エリオンは視線を向けた。


レアが壁にもたれて立っており、

その前で神官が話をしていた。


エリオンは近づきながら尋ねた。


「お二人で何をそんなに話しているんですか?」


神官はエリオンを振り返った。


「王都に着いた後の話をしていた」


「その後、ですか?」


エリオンは少し不思議そうに聞き返した。


神官はうなずき、

ちらりとレアを見た。


レアが口を開く。


「帰郷する時の護衛を予約できないかって聞かれてたんだ」


そう言って肩をすくめた。


「私は別に構わないけどね」


帰郷の道。


エリオンはしばらく口を閉ざした。


ふと、

オルムで神官と交わした会話を思い出す。


『中央教会に入ることもできる、ということですか?』


そして、

トリが傭兵証を弄っていた姿も脳裏に浮かんだ。


王都に着けば――


誰かは、

そこで別れることになるのだろうか。


その事実がどこか不思議に感じられた。


荷物をまとめた一行は、

再び王都へ向けて歩き始めた。


空には雲ひとつない。


陽射しは暖かく、

風も穏やかだった。


トリは朝から夫婦に張り付き、

楽しそうに話し続けていた。


ベルもまた、

どこか浮き立った表情をしていた。


エリオンは少し歩調を緩め、

先を行く仲間たちを見つめた。


楽しそうに語り合いながら歩く姿。


ふと、

今回の旅はうまくいくかもしれないと思った。


だが――


しばらくすると、

妙な違和感を覚え始めた。


道ですれ違う巡礼者たちが、

警戒するような目でこちらを見ていた。


剣の柄に手をかけたまま通り過ぎる者もいれば、

露骨に睨みつけていく者もいた。


いつもなら、

軽い挨拶くらいは交わしていたはずなのに。


エリオンは思わず周囲を見回した。


その時、

先を歩いていた老傭兵が低く呟いた。


「うむ……何だか妙だな」


レアも静かにうなずく。


それ以降、

皆の口数は自然と減っていった。


そうして一日中歩き続け、

日が暮れかけた頃だった。


遠くに小さな灯りが見えた。


誰かが野営しているらしい。


トリの目がぱっと輝く。


「あっ、よかった!

 あっちに合流すればいいんじゃないですか?」


老傭兵はしばらく灯りを見つめた後、

ゆっくり首を横に振った。


「いや。少し離れた場所にした方がいい」


トリは不思議そうな顔をした。


「どうしてです?」


隣でレアが短く息を吐いた。


「私たちが行っても、

 向こうは歓迎しないと思うよ」


エリオンはレアを見た。


レアは頭を掻きながら口を開く。


「道で見ただろ?

 みんな妙に神経質になってた」


老傭兵が低く呟く。


「盗賊どもの噂も、

 どうやら単なる噂ではなさそうだな」


ベルは怯えたように、

エリオンの服をぎゅっと掴んだ。


エリオンは遠くの小さな灯りを見つめた。


向こうもこちらを警戒しているのかもしれない。


結局、

灯りから少し離れた場所に陣取った。


拾い集めた薪で火を起こし、

簡単に夕食を済ませる。


食事の最中も、

レアと老傭兵の表情は冴えなかった。


食事が終わると、

レアと老傭兵は神官と夫を呼んだ。


最初に口を開いたのは老傭兵だった。


「今夜は見張りを立てた方がよさそうだ」


夫の表情がわずかに強張る。


「そこまでですか?」


レアはうなずいた。


「少し疲れるだろうけど、

 我慢して」


彼女は闇の向こうへ視線を向けた。


別の野営地の小さな灯りが、

夜の中でいっそう鮮明に見えていた。


「雰囲気が……

 あまり良くない」


しばし沈黙が流れた。


そして全員が静かにうなずいた。


短い相談の末、

見張りの順番が決まった。


神官、エリオン、レア、

老傭兵、夫の順だ。


最初の番である神官を除き、

皆は休む準備を始めた。


神官は火を管理しながら、

何度も周囲へ目を配った。


誰も簡単には眠れなかった。


不安から何度も寝返りを打ち、

小さな物音にもびくりと反応する。


いつもとは違う、

落ち着かない夜だった。


翌朝。


再び歩き始めると、

空気が変わっていることを実感した。


聖騎士や巡回兵の姿が、

いつもより目につく。


聖騎士は巡礼者たちを注意深く観察し、

巡回兵も緊張した面持ちで周囲を警戒していた。


レアが小さく舌打ちする。


「本当に何かあるみたいだね」


老傭兵は答えなかった。


だが、その表情は硬いままだった。


そうしてしばらく歩いていた時だった。


道端の隅に、

誰かが倒れているのが見えた。


エリオンは反射的に駆け出そうとした。


その瞬間、

レアの手がエリオンの肩を掴んだ。


「待って」


その目は鋭く沈んでいた。


「盗賊が囮を置いてる可能性もある」


レアは道脇の草むらを見回し、

手振りで待機を指示した。


そしてゆっくりと、

剣を握ったまま倒れている人物へ近づいていく。


一定の距離まで近づくと、

慎重に身を低くした。


しばらく相手の様子を確認し――


やがて短くため息をついた。


頭をがしがしとかいたレアが振り返る。


「おーい! 囮じゃなさそうだ!」


全員が安堵の息を漏らした。


だが、

レアの表情はまったく明るくなかった。


彼女は再び倒れている人物を見下ろした。


そして低く呟く。


「でもな……」


レアの顔がゆっくりと歪んだ。


「こりゃ、こっちの方が面倒かもしれないな」


```

```


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ