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巡礼者の道  作者: 잿빛서기관


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平穏な居場所

第28話 平穏な居場所


俺たちはスラム街の中をゆっくり歩いていた。


淡い光の粒が、

あちこちを漂うように浮かんでいる。


ひび割れた壁の隙間で、

蛍のように留まっているものもいれば、


人の肩をかすめながら通り過ぎ、

淡い軌跡を残していくものもいた。


トリは感心したような顔で

辺りを見回していた。


「わあ……」


彼が手を伸ばすと、

漂っていた小さな光が一つ、

ゆっくりとその手の上に降り立った。


トリの目がぱっと輝く。


「兄ちゃん! 見てよ!」


彼は子供のように

手のひらをあちこち振り回した。


だが光はすぐに散ることも、

消えることもなかった。


ただ静かに、

その手の上に留まっているだけだった。


隣で見ていたベルも、

そっと手を伸ばした。


しかし今度は、

光は手ではなくベルの髪の上へと

ふわりと舞い降りた。


それを見ていたエリオンが、

思わず口を開く。


「ベル、頭に何か乗ってるぞ。」


ベルは目を丸くすると、

慌てて頭に手をやった。


その瞬間、

光は髪の間から抜け出し、

ゆっくりと空へ浮かび上がる。


「あっ。」


ベルはぼんやりと、

光を目で追った。


その様子が妙に可笑しくて、

皆が小さく笑った。


ベルの顔が少し赤くなる。


「……なんで笑うんですか。」


レアがくすりと笑った。


「だって可愛いんだもの。」


ベルは不満そうに

唇を尖らせた。


夫人はそんなベルを微笑ましそうに眺めた後、

ふと周囲を見回した。


淡く漂う光。


暖かな空気。


そして静かな夜の街並み。


「こんなに綺麗で……

暖かくて穏やかな場所だったなんて。」


彼女は少しの間、

考え込むような顔をした。


そして夫の方を向いて言う。


「ねえ、今夜はここで泊まっていきませんか?」


夫も周囲を見渡した。


「それも悪くないな。


空き家に泊まっていく巡礼者も

いるらしいしな。」


そう言って、

自然に神官へ視線を向ける。


神官はしばらく辺りを眺めていた。


短い沈黙の後、

静かに口を開く。


「わざわざ夜風に当たりながら

眠る必要もないでしょう。」


その言葉に、

夫人の顔がぱっと明るくなった。


「いい考えですね。」


トリも露骨に喜ぶ。


「やったー!」


ベルも漂う光を見つめながら、

どこか嬉しそうな表情を浮かべていた。


エリオンは静かに周囲を見回した。


一つの小さな光が飛んできて、

そっと彼の肩へ降り立つ。


エリオンはその光をしばらく見つめた後、

視線をスラム街へ向けた。


ふと、

老傭兵の言葉が脳裏をよぎる。


『人が留まる場所だったのに、

光が留まる場所になっちまった。』


エリオンは小さく首を振り、

その考えを追い払った。


……みんなあんなに喜んでるんだ。


あまり重く考えすぎるのはよそう。


そう思いながら、

エリオンはゆっくりと歩き出した。



一行はスラム街の路地を歩き回りながら、

今夜泊まれそうな場所を探し始めた。


だが思ったより簡単ではない。


状態の良さそうな家は、

すでに他の巡礼者たちが陣取っていた。


戸口にもたれかかりながら

こちらをちらりと見る者もいれば、


中で焚き火を囲みながら

休んでいる者もいる。


ある男は手を振った。


「ここはもう埋まってるぞ!」


別の男は笑いながら言う。


「条件のいい場所は全部先客がいるさ。」


俺たちはさらに何軒か見て回った。


そしてようやく、

人が寝られそうな空き家を見つけた。


屋根はぎしぎしと軋み、

あちこちひび割れてはいたが、


風くらいは十分に防げそうだった。


夫人が中を覗き込みながら呟く。


「人が多いですし……

全員入るには少し狭そうですね。」


夫が苦笑した。


「ここより良い場所を探すのは難しいぞ?」


彼は小屋の天井を見上げる。


「そもそもスラム街なんだからな。

これでもかなり広い方だ。」


そう言うと、

真っ先に中へ入っていった。


トリが夫人の顔色をうかがいながら呟く。


「足、痛いんだよなあ……」


夫人が小さく笑った。


「そうなの?」


その時、

中を見回していた夫の声が響いた。


「これなら寝る場所くらいは十分ありそうだ。」


レアも中へ入り、

壁を拳で軽く叩いてから言った。


「野宿するよりはずっとマシね。」


夫人は少し迷うような顔をしたが、

やがて苦笑しながら中へ入った。


ベルと神官も黙って後に続く。


エリオンもまた、

ゆっくりと足を踏み入れた。


その時だった。


後ろから老傭兵の声が飛ぶ。


「おい、ちょっと待て。」


エリオンは足を止めて振り返った。


「そこの……エリだったか?」


「エリオンです。」


老傭兵は顎髭をかいた。


「ああ、そうだったな。エリオン。」


彼は顎で外の路地を示した。


「お前さん、ちょっと俺と一緒に辺りを回ってこい。」


エリオンは少し考えてから尋ねた。


「薪でも拾いに行くんですか?」


すると老傭兵はにやりと笑った。


「そうだ。


男二人ならすぐ済む。」


そう言うと、

彼は先に歩き始めた。


エリオンは後を追おうとして、

ふと中を振り返る。


トリはもう壁にもたれて座り込んでいた。


ベルは漂う光を見上げながら、

楽しそうに微笑んでいる。


レアはそんな様子を静かに眺めていた。


隅では夫婦が肩を寄せ合い、

何かをひそひそと話している。


神官はその様子を見ながら、

小さくため息をついた。


エリオンはしばらくその光景を見つめた後、

思わず笑みを浮かべた。


その時、

先を歩いていた老傭兵が振り返る。


「おい! 来ないのか?」


その声に我に返った。


「あ、今行きます!」


エリオンは慌てて老傭兵の後を追った。



老傭兵と共に路地を歩き回りながら、

手頃な薪を集めていった。


そんな時、

妙な光景が目に入った。


家の中には空きがあるのに、

わざわざ外で眠ろうとしている者がいる。


家の中から誰かが叫んだ。


「おーい! 中で寝ろよ!」


だが男は、

手をひらひら振るだけだった。


その様子を見ていると、

老傭兵がぽつりと言った。


「若いのはすぐぼんやりするもんだな。」


そう言って、

そのまま歩き出す。


「行くぞ。」


エリオンは慌てて後を追った。


しばらく歩いた後、

ふと老傭兵が持っている薪に目をやる。


思ったよりずっと少ない。


不思議そうな顔をしたエリオンに、

老傭兵が苦笑した。


「ここじゃそんなもんだ。」


エリオンは、

先ほど外でうたた寝していた男を思い出した。


「……なるほど。」


普段から暖かい場所だからだろう。


薪はそれほど必要ないらしい。


エリオンは小さく頷き、

それ以上は聞かなかった。


俺たちはそのまま宿へ戻った。


集めてきた薪を一か所に積み、

火をつける。


量は多くなかったが、

火はすぐに勢いを増した。


夫人が鍋を火にかけながら、

にこやかに言った。


「とっておきのスープをご馳走しますね。」


彼女は干し肉や乾燥食材を細かく刻み、

鍋へ放り込んでいく。


ゆっくりとかき混ぜながら塩を加え、

時折味見をして味を整えていた。


やがて、

温かな香りが辺りに広がり始める。


そうしてしばらく鍋が煮えていた時だった。


ふわり。


漂っていた小さな光の一つが、

鍋の上をくるりと回る。


そしてそのまま、

ぽちゃんとスープの中へ飛び込んだ。


ベルが目を丸くした。


「えっ?

あれ、大丈夫なんですか?」


トリがくすくす笑う。


「もう味付けいらないじゃん!」


レアは呆れたように鼻を鳴らし、

夫人も楽しそうに笑った。


「ふふ。

お腹を壊したらあなたの責任よ?」


「大丈夫ですよ、たぶん!」


神官が吹き出しながら口を挟む。


「その言葉、覚えておきましょう。」


トリはぴたりと固まった。


そして気まずそうに視線を逸らす。


その様子に、

ベルも思わず吹き出した。


夫人は笑いながらお玉を持ち上げる。


「おしゃべりはそこまで。


できましたから、

一人ずつ受け取ってください。」


夫人はスープを順番に配った。


トリは受け取るなり勢いよく飲み込んで、


「熱っ! 熱っ熱っ!」


と大騒ぎした。


一同はそんなトリを見て、

再び笑い声を上げる。


レアは無言で数口すすった後、

ぽつりと言った。


「美味しい。」


夫人はどこか誇らしげな顔になる。


「でしょう?」


彼女は肩をすくめた。


「こう見えても、

ちゃんとコツがあるんですよ。」


するとトリが勢いよく手を挙げた。


「おかわり!」


夫が呆れたように言う。


「本当によく食べるな、お前は。」


「いっぱい歩いたから、

お腹空いたんですよ!」


そんな風に笑いながら過ごしているうちに、

鍋もいつの間にか空になっていた。


満腹になったせいだろう。


皆、

自然と口数が少なくなっていく。


焚き火は残り火だけとなり、

ぱちぱちと小さな音を立てていた。


漂う光たちも、

ゆっくりと天井近くを舞っている。


そうして夜は、

静かに更けていった。


寝床につこうとした頃だった。


ちょっとした問題が起きた。


思っていた以上に暑かったのだ。


火はもう消えているのに、

熱気がなかなか抜けていかない。


……ああ。


だから薪があまり必要ないと言っていたのか。


エリオンは結局、

羽織っていたポンチョを脱いで脇へ置いた。


夫婦も上着を脱いで畳み、

神官も暑そうに首元を少し緩める。


トリは床に大の字になったまま呟いた。


「暑い……。


暑すぎる……。」


ベルも頬を赤くしながら、

手でぱたぱたと風を送っていた。


だが、

一番大変そうなのはやはりレアだった。


彼女は鎧を脱げないせいで、

汗びっしょりになっている。


レアは壁にもたれながら顔をしかめた。


そしてついに、

勢いよく立ち上がる。


「あーもう、こんなんじゃ寝られないわ。」


彼女は剣を手に取ると、

そのまま外へ出ていった。


しばらくして、

外から壁に背を預けて座る音が聞こえる。


そして少し経った頃。


今度は老傭兵ものそのそと外へ出ていった。


彼の背中も、

レアと同じように汗でぐっしょり濡れている。


老傭兵はレアの隣へどかりと腰を下ろした。


レアは横目で彼を見る。


そしてふっと笑った。


老傭兵も何も言わない。


レアはそのまま空を見上げた。


外では、

光の群れがゆっくりと漂っている。


まるで夜空を泳ぐ蛍のようだった。


そうしてスラム街の夜は、

静かに深まっていった。



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