表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巡礼者の道  作者: 잿빛서기관


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/26

酒の席

第十三話 酒の席


【酒の席では、


人の本音が少しだけ見える。


もっとも、


見えなくてもいいものまで見えることもあるが。】


レアはしばらくこちらを見ていたが、


やがてジョッキを置いた。


コトン。


「座れ」


無愛想な声だった。


司祭が静かに尋ねる。


「……どういう意味ですかな」


「護衛する相手がどんな連中か、


知っといた方がいいだろ」


レアは椅子にもたれかかった。


「同行するなら、


飯がまずくなるような奴は弾いとかないとな」


トリーの目が輝く。


「おお」


司祭は少し困った顔になった。


「いや、


そこまでしていただかなくても――」


「最初の一杯は私が出す」


レアが言葉を遮った。


「気にするな」


そう言って、


こちらをひと通り見回す。


そして。


少しだけ口元を歪めた。


「なんだ。


神父様は酒が飲めないのか?」


トリーが即座に司祭を見上げた。


「……飲めないんですか?」


司祭の眉間がぴくりと動く。


エリオンは思わず笑いそうになった。


レアが顎で空席を示した。


「座れ」


結局、


俺たちは同じテーブルにつくことになった。


レアは手を上げて店員を呼ぶ。


「安くてきついやつ」


司祭がすぐに反応した。


「……安くて強い酒ですか?」


「なんだ?」


レアは平然と聞き返す。


「安いし、


すぐ酔えるし、


うるさい奴の口も閉じる」


いかにもレアらしい理由だった。


トリーが妙な見栄を張る。


「そのくらい余裕ですよ」


エリオンは横目でトリーを見る。


……絶対やらかす。


だが、


心配している場合でもなかった。


エリオン自身も少し緊張していた。


酒を飲むのはほとんど初めてだった。


故郷では酒自体が貴重品だ。


祭りでもなければ滅多に見ない。


何より、


酒より先に腹を満たす方が大事だった。


それなのに。


妙に楽しみでもあった。


傭兵ギルドの空気。


騒がしい酒場。


知らない街。


全部が初めてだった。


やがて。


ドン、ドン、ドン。


乱暴な音を立てながら、


ジョッキがテーブルに並べられる。


強い匂いが鼻を突いた。


トリーが即座に顔をしかめる。


「……なんだこの匂い」


レアは気にも留めず、


ジョッキを持ち上げた。


「飲め」


そして一気に流し込む。


司祭も静かに続いた。


エリオンは様子を見ながら口をつける。


次の瞬間。


喉が焼けた。


「げほっ!」


トリーが盛大に咳き込む。


「なんだこれ!?」


エリオンも似たようなものだった。


口の中が痺れる。


涙まで出そうになる。


だが。


司祭だけは平然としていた。


それを見たレアが、


くっと笑う。


「田舎者は田舎者だな」


トリーが即座に反発した。


「違います!」


「じゃあもう一杯飲め」


「……やっぱいいです」


レアは呆れたように笑う。


そして。


つまみの皿をこちらへ押した。


「せめてそれ食え。


空きっ腹で飲むと一発で潰れるぞ」


ぶっきらぼうな言い方だった。


なのに。


妙に面倒見が良い。


エリオンはつまみを口へ放り込み、


無理やり酒を流し込んだ。


正直、


うまくはない。


だが。


残したくもなかった。


食べ物を捨てるなんて、


余裕のある人間のすることだ。


トリーは何度か挑戦したが、


結局ジョッキを置いた。


「……無理」


そして。


こっそりエリオンへ差し出す。


「兄ちゃん飲んで」


エリオンは呆れた。


「頭おかしいのか」


「お願い」


ゴツン。


エリオンの拳がトリーの頭に落ちた。


「いてっ!」


トリーは頭を抱える。


だが結局。


その分までエリオンが飲むことになった。


レアはそれを見て、


本気で呆れたように笑った。


「変な奴らだな」


思ったより、


悪い空気ではなかった。


トリーはすっかり傭兵たちの観察に夢中だ。


エリオンは少しずつ顔が熱くなっている。


司祭はため息をつきながらも、


席を立とうとはしなかった。


むしろ。


疲れた顔で俺たちを眺めていた。


その時だった。


「おい」


知らない声が割り込んできた。


ふらつく足取りの傭兵が、


こちらのテーブルへ近付いてくる。


酒臭い。


男はレアを見るなり笑った。


「なんだよ。


今日はガキまで連れてるのか?」


トリーの表情が固くなる。


レアは顔も上げなかった。


ただジョッキを弄んでいる。


男は構わず続けた。


「よっぽど困ってるんだな」


「女なんか連れてさ」


周囲から笑い声が漏れる。


男は酒気を吐きながら、


さらに身を乗り出した。


そして。


当然のようにレアの肩へ手を伸ばす。


「どうせ女なんか長くは――」


パンッ。


レアが手首を払い落とした。


表情は相変わらず面倒そうだ。


「触るな」


男が鼻で笑う。


「相変わらず性格悪いな」


「だからいつまで経っても一人なんだよ」


「女がいると縁起悪いんだってな」


周囲の傭兵たちも酒の勢いで笑う。


その瞬間。


エリオンの頭が熱くなった。


酒のせいか。


苛立ちのせいか。


自分でも分からない。


「……いい加減にしろよ」


思わず口から飛び出した。


司祭が振り向く。


「エリオン」


だがもう遅い。


男がエリオンを見下ろして笑う。


「なんだ?」


「田舎者が怒ったか?」


エリオンは眉をひそめる。


「嫌がってるだろ――」


男が大股で近付いた。


パシンッ。


視界が揺れた。


周囲の笑い声が大きくなる。


トリーが勢いよく立ち上がった。


「兄ちゃん!」


エリオンは呆然と頬を押さえる。


頭がぐらぐらした。


男が笑う。


「女の前で格好つけて――」


その瞬間。


ガンッ。


男の顔面がテーブルへ叩きつけられた。


一気に静かになる。


レアだった。


男の腕を捻り上げたまま、


顔をテーブルへ押さえつけている。


男が悲鳴を上げた。


「痛っ! 離せ!」


「うるさい」


レアが面倒そうに言う。


「酒がまずくなる」


さらに顔が押し付けられる。


周囲の傭兵たちが息を呑んだ。


さっき笑っていた連中まで黙る。


レアはようやく手を離した。


解放された男は顔を歪める。


「この女……」


小さく毒づいたものの。


周囲の視線を気にして、


結局そのまま引き下がった。


レアは何事もなかったように座り直す。


そして。


エリオンをちらりと見た。


「……なんでお前が怒るんだ」


エリオンはぽかんとした顔で答える。


「……さあ」


レアが吹き出した。


「酔ってるな」


司祭は深々とため息をつく。


「頭が痛いな……」


トリーはすっかり目を輝かせていた。


「すげえ……」


尊敬そのものの眼差しだった。


レアはちらりと見る。


だが。


何も言わない。


再びジョッキを持ち上げた。


そして静かに俺たちを見る。


酔っ払いの田舎者が一人。


生意気だが根はいい子供が一人。


文句を言いながら結局付き合ってくれる司祭が一人。


レアはしばらく黙っていた。


そして。


ぽつりと言った。


「……まあ」


少しだけ口元を緩める。


「その依頼、受けてやる」


トリーの顔が一気に明るくなる。


「本当ですか!?」


「ただし」


レアが指でテーブルを叩く。


トン。


「遅れたら置いていく」


トリーは即座に背筋を伸ばした。


「もちろんです!」


レアは呆れたように笑う。


「集合は東門」


「正午だ」


そして再びジョッキを持ち上げた。


「遅れるなよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ